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vol.99 母の入院生活 32


塔子は携帯に手を伸ばした。呼び出し音がしてしばらくすると、はい、というぶっきらぼうな声が聞こえた。
「もしもし? 私だけど」
塔子は壁にもたれたまま、やや早口で切り出した。心臓がドキドキした。
「何?」
電話の向こうの彼も、塔子の早口が移ったかのような喋り方だった。母の病院から電話があった事。出向かなければならない事。自分は行けそうにない事。大変申し訳ないが、代わりに行ってもらえないか、と塔子は切り出した。熱で頭が割れそうに痛かった。
「それって、今日じゃないとダメなわけ?」
彼は大きな溜め息をついた後、そう答えた。
「別に急ぎじゃないなら、元気になってから自分で行けばいいんじゃない?」
「……それはわかってる。わかってるよ。出来そうにないから、電話したんじゃない」
何も、好き好んで彼に電話をしたわけじゃない。出来る事ならば、塔子だって全部自分でしたい。母に関する事柄も、子供達に関する事柄も、全て。本音を言うなら、彼に関わってもらいたくもない。今までだってそうだったのだ。彼は一切の事柄に無関心であったのだ。今更、些細でちっぽけな用事を済ませてもらったところで、1000あった内の1か2を手伝ってもらうような気分だった。きっと、それでさえも、彼は自分の行いを恥じるどころか、自分の手柄に満足を覚え、鬼の首を取ったかのように振舞うのだろう。ほら、オレはこんなに優しい人間なんだ! オレには全く関係のない嫁の母親の世話までしてやったんだ! 

むしろ、彼に自分の代わりをしてもらうなど、御免蒙りたいくらいだった。今まで、たった一人でやって来た数えきれないほどの苦労が、この塵ほどの小さな願い事で全て帳消しになるような気がしたからだ。
それでも、塔子はまだ心のどこかで彼に期待をしていたのだ。それは他人から見れば馬鹿みたいにちっぽけな感情であろう。そう、塔子はまだ、心のどこかに彼を信じたい気持ちがあったのだ。彼、というより、世間一般の人がだいたい想像するであろう、理想の夫婦像のようなものを淡く期待していたのだ。否、夫婦像というより、人が人として人に対して接する際に持つ、優しい心を。慈しむ心を。彼がそれを忘れてしまっているなら、思い起こさせたい気持ちもあったのだ。

「うーん。オレ、年末だから、忙しいんだよね。遅くなってもいいなら、行ってやってもいいけど……」
「そう。○時までなら玄関から入れる。それ以降になるなら、裏に回って鍵を開けてもらって」
塔子は壁にもたれたままの姿勢で、一気に喋った。まさか、彼が行くと言い出すとは夢にも思わなかったのだ。彼はその後行くと言ってしまった自分に後悔しているのか、しばらくごにょごにょと仕事の話をしていたが、塔子は聞く気にもなれなかった。塔子は既に自分のキャパシティがいっぱいいっぱいになってしまっていたのだ。誰の言う言葉も、心には響かなかった。自分が黙ってしている事を、何故世間の人は隙あらば放りだそうとするのか。たとえ放りださなかったとしても、何故大騒ぎをして自分の成し遂げた成果を吹聴して回るのか。その時の塔子の心を占めていたのはそういった汚い感情で、それは何者であっても何事であっても、彼女の心を温かく解す事は不可能であった。

後に、塔子は自分が彼によってもたらされたこの事態に名前があると気付くようになる。それはまだまだ先の話だ。それは何年も何年も続き、確実に塔子の心を頑なにしたのだ。それは、母の介護があってもなくても関係なく、きっといつかは気付いたのであろう。

ありがたい事に、母がそのリハビリ専門病院に入院中、彼は合計二回、病気の塔子の代理や運搬作業などで塔子を手伝ってくれた。半年近く入院していて、二度も彼の手を煩わす困難な状況が発生したのだ。母が死に、全てが終わってしまった後、塔子はその二度の失態について、詫びた。半分は本当に感謝の心から。そしてもう半分は、完全に彼を蔑む気持ちで。彼が理解出来たのは、心からの感謝の方で、もう一方の嫌味という感情には、彼は純粋すぎるのか、全くもって気付いてはいなかった。

年が明けたある日、新しく移る予定である病院から連絡が入った。塔子は上田に連絡を入れ、日程に合わせて子供達の放課後や降園後の居場所作りの手配をし、また介護タクシーの手配をした。転院当日には、看護師長やお世話になった看護師数名、それに上田が見送ってくれた。担当の看護師はその日休みなのか、不在であった。
「よかったね、塔子さん」
上田はにこにこしながら塔子にそう声を掛けた。
「はい。上田さんには本当にお世話になりました」
塔子は深々と頭を下げた。
「これから、まだまだ大変な事がたくさんあると思うけど……頑張って」
上田が不意に呟いたその言葉に、塔子は何も言えず、ただ頷くのが精いっぱいだった。何かを口にすると、涙が溢れそうだった。鼻の奥がツンと痛い。一体、自分は何に対して泣こうとしているのか、それすらもわからなかった。

介護タクシーの運転手が母を車に移し、ロックを掛けて固定した。塔子はもう一度皆に頭を下げ、タクシーに乗り込んだ。
「さようなら」
「元気でね」
看護師達の声に塔子は手を振った。やがて車はゆっくりと走り出し、病院は小さくなって跡形もなく消えていった。


「母の入院生活」シリーズ



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いつも最後までお読み下さり、ありがとうございます。

しろ☆うさです

いや~~びっくりした! 久し振りに開いたら、自分のブログにスポンサーサイトが出てた!!

てことは、一カ月間、更新してなかったって事ね やべーやべー。

前の記事から一カ月も経過していたって事にも驚きよ(笑)。そんなに経ってたっけ? 

てか、そんなに忙しかったっけ? 自分が何してたのか、あまり覚えてないけど……大丈夫か(笑)?

ま、それはさておき、今回は99話目。「母の入院生活」のシリーズでは32話目になりました。

ながー。最近更新してもこればっかで飽きてきました(笑)? まぁ、そろそろこのシリーズも終わるので……もうちょっとの辛抱ですよー(笑)。

今回は書くの、時間かかりました。なかなか、思うように書けなくて(いつもか)。書いては消し、書いては消し、で、結局何が言いたいのか意味不明な内容になる、という(笑)。

あー。書きたい事はがっつりとあって、ぶれてないのですがね。いかんせん文才がないもんで、頭で広がってる世界をそのまま書く才能がない……手だても。

なので、無駄に時間を浪費しているという(笑)。で、浪費した時間と内容が伴ってないという(笑)。いつもながら、お粗末な内容に仕上がっております(笑)。

99話書いてきて、全て書いている内容って「親子関係」、「夫婦関係」、「若者介護」、についてなんですが、まぁ、ズバッと言ってしまえばモラハラが及ぼす親子関係が原因因子となって、そこから大人になって結婚してもモラハラの連鎖がありますよ、っていう内容なんですね。そのスタンスでずっと書いてきました。

で、次回100話目なんですけど、ここからはもうちょっと奥まで進んで行く……というか、じわじわと、モラハラの気付き→モラハラの認知→改新→その後の生活……というように進めて行きたいな、と思っています。

ざっくり言うと、最終目標はモラハラに関しての内容ではなく、その後の、それ以上の部分なんですが、どこまで出来るかは今はまだわかりません。でも途中で止めちゃったら、ただの被害者意識で終わっちゃうしなー。そういうのは全然違うしなー。

ま、これまでのようにゆっくり進めて行きます(笑)。

いつもお越し下さる方、時々覗いて下さる方。そして拍手やランキング等押して下さっている方。いつも心より感謝しています。ありがとうございます

しろ☆うさでした~~\(^o^)/



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