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vol.89 母の思い出 5

塔子が小学生の頃、それは何年生であったのかはもう忘れてしまったが、母が自分の祖母を自宅に引き取った事がある。塔子からみれば、ひいおばぁちゃんだ。
ひいおばぁちゃんは、娘と二人暮らしだった。娘というのは、母の母で、塔子のおばぁちゃんである。二人はずっと共に生活をしていたが、ひいおばぁちゃんの体が弱り介護が必要になってしまった事から、母が面倒を看るために自宅に連れてきたのだ。塔子はなんだかワクワクしていた。それまで、いつもお休みの日などにたまに母に連れて行ってもらって会うだけだった人が、今日から毎日自分の家で暮らす事になったのだ。小学生の塔子は純粋にその状況を楽しんでいた。

ひいおばぁちゃんは、徐々に弱っていった。ヨロヨロとした足取りになり、トイレが間に合わなくて粗相をするようになった。母は文句をブツブツいいながら、その後始末をした。ひいおばぁちゃんは申し訳なさそうな顔をして、塔子を手招きした。
「塔子。お母さんにごめんって言ってきて」
自分で言えばいいのに。小学生の塔子は不思議に思った。失敗をしたのだから、自分で謝るべきだ。それなのに何故、私が代わりに母に謝りに行かなければならないのか。納得がいかない塔子は、その言葉を聞き流した。

母の祖母を引き取るに当たって、全ての事柄がスムーズに運んだわけではない。母は三人兄弟の末っ子だった。かなり歳の離れた兄が東京におり、そして近隣に姉が住んでいた。一緒に暮らしていた娘は、当時まだ働いており、日中介護をする事が出来ない。そこで子供の三人のうち、誰が面倒を看るのかで、相当揉めたらしいのだ。それらの経緯は塔子が大きくなって母から聞かされたのであり、その頃の塔子には知る由もなかった。

東京に住む伯父は、引き取りを拒んだのか拒まなかったのかはよくわからない。ただ、話の初めから論外だったのではなかろうか。遠くに住む伯父に、自分の祖母を押しつける事は出来ないと母は思っていたのか。その辺りはよくわからない。ただ、伯父には子供がなく、夫婦二人だけで穏やかに暮らしていた。伯父は世間的には名の知れた立派な企業に勤めており、伯母は看護師をしていた。共働きだった事も、除外された一因になっているだろう。
隣りの県に住む伯母は、塔子の家から電車で一時間ほどの距離に住んでいた。専業主婦で、小学生の子供が二人いた。彼女は最初から引き取りを強く拒んだ。理由はわからない。ただ、嫌だったのだろう。そこで、末っ子の母に白羽の矢が立ったのだ。

母は拒む事を一切しなかった。誰かがしなければならないのだ。母は父に自分が祖母を家に引き取る事を告げ、それを実行した。ひいおばぁちゃんが塔子達と共に暮らしたのは、一体どのくらいの期間だったのだろう。幼かった塔子の記憶は曖昧だ。ただ、それは何年も何年も続いた話ではなかったはずだ。長い年月を一緒に暮らしていたのなら、塔子の記憶に鮮明に残っているはずだ。しかし、それらは遠い過去であり、記憶が曖昧になっている事を差し引いても、頭の中がひどくぼやけて思い出せないのだ。

塔子の家に、伯父と伯母がやって来た。東京から遥々やって来たのだった。伯父は母を労った。伯母は看護師という立場から、義祖母の状態を見た。そして突然、金切声を発した。
「ちょっと! これは、一体、どういう事なの!! どうしてこんなになるまで放っておいたの!!」
伯母は布団をめくり、ひいおばぁちゃんの体を見ていた。そこには青い床ずれが広がっていた。
「清子ちゃん!! こんなになるまで放っておくなんて、あなたって人は……! あなたって人は……!」
伯母はワナワナと震えだし、声を挙げて泣き始めた。泣き出した兄嫁を冷静に見ていた母は、低く、でも意外にしっかりとした声で言葉を発した。
「毎日、体位を変えていたわ。数時間置きに。それでも、出来てしまったのよ」
「私の患者で、床ずれが出来た人なんていないわ!」
「それは、そうかもしれない。24時間、一人で看ているわけじゃないからね」
伯母はピタッと泣き止んだ。うっすら、頬が上気しているように見えた。
「口ではどうとでも言えるのよ、お義姉さん。やるか、やらないか。私は、やった。やっただけ」
伯母は黙ったまま、それからはもう何も言わなかった。

それから暫くして、ひいおばぁちゃんは病院に入院する事になった。何年入院していたのかはよく覚えていない。ただ、それはそんなに長い入院生活ではなかったような気がする。ひいおばぁちゃんはその後、天国へと旅立った。塔子は泣いた。隣りに立つ人を見上げると、そこにはうっすら涙を溜めた母がいた。
「あの人はね、私のおばぁちゃんだったけど、母親みたいな存在だったの。ほら、あなたのおばぁちゃん、ずっとずっと働いていて忙しいでしょう? だから、家の事全て、私は私のおばぁちゃんにしてもらっていたの。お母さんは外で働く人。夜にならないと帰らない人。でも、おばぁちゃんは、ずっと私の傍にいてくれた。私のご飯を作ってくれて、宿題を見てくれて、洗濯してくれて、アイロンを掛けてくれて、たくさん口喧嘩もしてね……」

遠くで、泣き声が聞こえる。大きな声で泣いているのは、母の姉、塔子の伯母だ。それに負けじと、東京の伯母も、鼻をぐすんぐすんと言わせている。義母の母の葬式で、その人は鼻を鳴らしている。塔子はおばぁちゃんを探した。おばぁちゃんは自分の息子である東京の伯父に体を支えられながら、棺桶の中に両手を伸ばして泣いていた。お母さん、お母さん、と呟きながら、いつまでもそこから離れようとはしなかった。
「あなたのおばぁちゃんとひいおばぁちゃん……ね、一卵性の双子みたいなものだったの。いつも、べったりで。まぁ、ずっと、ずーっと二人暮らしだったからね」
母は自分の親の嘆き悲しむ姿を見て、少し微笑んだ。
「相思相愛だったんだ、あの二人。子供だった私から見ても、異様なほどね」
そういう母がどこか寂しげな、懐かしそうな表情をしていた事は覚えている。ただ、塔子の父がその時どこにいたのか。それは全く思い出せない。その場にいたのか、いなかったのか。それすらも、わからない。幼い塔子は、母が他の人と同じように涙を流さない事を不思議に思った。薄情な人だ、と感じた。その感覚だけは、今でも覚えている。


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しろ☆うさです

いつも最後まで読んで下さって、ありがとうございます!

今回は、すごーーく久し振りに、「母の思い出」シリーズの続編です。

あ、続編といっても、このシリーズも年代バラバラなので、続きものではないのですが……。

今回は、小学生の時の塔子ちゃんのおはなしです(笑)。年代、バラバラすぎるやろっ!って感じですね(笑)。ハハハ!

このシリーズ、全然書いてないまま放置していて。てか、ちょっと忘れてて(笑)

久し振りにちょっと書いてみるかー!と思い腰を上げた次第です☆

うーん 内容は……どうなんだろう? 意味不明な感じで終わってますよね。

続き、あります。いつかまた書こうと思います←本当かー?

いや~~それにしても、これ、すっごく間が空いてしまったな。最初の三話は2014年に書いていて、残りの一本は2015年の5月22日に書いてる……。どんだけ放置してたのよ(笑)。

あ、ここから↓飛べますよ↓

「母の思い出」1,2,3,4

ね? ふるー。もう内容すっかり忘れてたわっ!って感じでしょー(笑)。

ま、ネタがなくてさ(笑) 仕方ないのです

いつも訪問して下さる方、そして拍手やランキング等押して下さっている方、ありがとうございます。心から感謝しております

しろ☆うさでした~~(*^^)v



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