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vol.85 素晴らしい人格者 (からくり 3)

義父は人当たりのよい人だった。いつもニコニコとし、義母のとんちんかんな発言や行動を笑いながら戒めるのが常であった。彼はそんな父をいたく尊敬していた。母は明るく陽気だが思慮に欠け、父はいつも正しい思想を持ち、人格的に優れた人間であると思っているようであった。

実際、義父は穏やかな微笑みを浮かべ、口調も柔らかだった。興奮すると声を荒げる事もあったが、それは怒りの時に現われるのではなく、むしろ他人に身内を褒めている時に、垣間見られるのだった。
「塔子ちゃん! 塔子ちゃんは知らないと思うけれど、うちの息子は本当に頑張る子なんだよ! 無職になったからと言って、何も嘆く事はない! うちの息子は立派なんだから、きっとなんとかやっていけるさ!」
「……はぁ」
「塔子ちゃんは、全然わかってないよ! うちの息子はえらいと思うんだ! この歳で会社を辞めるなんて、なかなか出来たもんじゃないよ! 僕なんて、そんな大それた事、絶対に出来ないもんね。それをやってのけた息子は凄いと思うよ」
「……そうですね……」
全くそうとは思わない塔子の傍で、彼は声を大にして息子を褒めちぎった。無理に笑顔を作っているからだろうか、塔子は自分の頬が引きつってくるのを感じずにはいられなくなるのだった。自分の予想に反して塔子の反応が薄いせいだからか、義父はなんとか自分の気持ちを塔子に共感してもらおうと、半ばやっきになっているようだった。

また、こんな事もあった。難産で生まれた沙耶が健康体ですくすくと育ったのに反し、安産で生まれた海斗は、ありとあらゆる乳児健診に引っ掛かる子であった。生まれた直後に先天性の障害があるかもしれないと検査に回され、結局それは何事もなかったのだが、その結果がわかるまでの数日間、義父は生きた心地がしなかったらしく、折をみてその話題に触れた。
「本当に、あの時はびっくりしたよ! 今だから話せるけれど、僕は本当に、本当に、深く悩んだよ。じっとしていられなくて、インターネットで症状を調べてみたり、図書館で調べたりしてね。大変だったよ……」
「あぁ……あの時はすみません。お騒がせしました」
「いやいや、いいんだ。いいんだよ」
義父は優しい微笑みを浮かべ、手を左右に振った。愚かな者を赦す聖者のような仕草であった。
「それだけじゃ飽き足らなくてねぇ……僕は神社にお参りにも行ったんだよ。塔子ちゃんは知らないだろうけどね」
義父はそう言うと、当時自分の身に起こった出来事を振り返るかのように遠くを見て目を細め、大変だったんだよ、と呟いた。塔子はそうですか、と言う事しか出来なかった。それを口にする、何の意味があるのだろうか? 義父の真意がわからなかった。

露骨に嫌味を言われたのは、ただの一度だけだ。結婚式を挙げる二週間前、二人は入籍し、一緒に暮らし始めた。義母の勧めで義母の友達が経営する古いマンションに住み始めたわけだが、古いが故に設備の不備が目立った。トイレも例外に漏れず、住み始めてわずか三日ほどで故障した。塔子と彼は二人でなんとか直そうと奮闘していた。狭いトイレに道具を引き込んで、二人であれこれ作業していると、不意に彼の携帯が鳴りだした。もうちょっとでなんとかなりそうだという、実にタイミングの悪い時に、それは鳴ったのだった。彼は苛立ちを隠そうとはせず、はい! と強い口調で電話に出た。それは彼の父親からだった。彼は首に携帯を挟み、両手で作業を続けながら、父親と会話を続けた。イライラしている時に電話に出たものだから、彼の口調は強いものになった。ほどなくして、会話は終了した。
数日後、彼と塔子の結婚式が執り行われた。塔子は母親や弟や義妹、それに友人らに取り囲まれ、一人になる時はなかった。しかし、ほんの一瞬の隙に、塔子は一人になった。それは、一分もない。ほんの数秒程度の時間の隙間であった。そのあるかないかの僅かな瞬間に、義父は塔子にスッと近寄って来た。満面の笑みを浮かべていた。
「その後、トイレは直ったのかい? 塔子ちゃん?」
ウエディング姿の塔子を間近でまじまじと見つめながら、義父は穏やかな口調でそう尋ねた。
「はい。直りましたよ」
塔子は訝しく思いながら、そう答えた。この人は、一体何を言い出すのだろう。こんな時に。しかも、トイレが直った事は、すでに彼から義父に連絡していたはずだ。
「僕の息子は……結婚して、どうやら変わってしまったようだ」
義父は塔子から視線を外し、まるで独り言を言っているかのように、あらぬ方向を向いてそう呟いた。
「……えっ?」
「……本当に、優しい子だったのに。心の優しい子だったのに。いつ電話をしても、強い口調で話したりなんて、した事がなかったんだよ?」
「……」
「塔子ちゃんと結婚してからだよ。あの子が変わってしまったのは」
「……」
「どうして、こんな事になってしまったんだろうねぇ……?」
義父はそう口にすると、来た時と同じように、不意にスッと姿を消した。後に残された塔子は、義父の露骨な嫌味にびっくりし、茫然とその場で立ちつくした。何故、それを私に言う必要があるのだろう? 自分の息子の態度が気に入らないのであれば、それは自分の息子に注意すべき事であって、私に難癖を付ける必要はどこにもない。否、義父は、そもそも難癖をつけているつもりはないのかもしれないな、と塔子は不意にそう感じた。そもそも、嫌味を言っているつもりもないのかもしれない。義父は純粋に、本当に清らかな気持ちで、心底、本音を語っていたのかもしれない。包み隠さず、幼い子供のような部分を、私に垣間見せたのかもしれない。息子が自分に冷たくなった。それは嫁が来たからだ。全てはあの子が原因だ。自分を不愉快にさせる根本的原因は、嫁だ。諸悪の根源があの嫁ならば、一言文句でも言ってあの嫁にわからせなければならない。そういった安直な思考が、結婚式の当日に怒りを押さえられずに義父に嫌味を言わせたのかもしれない。

結婚式は忙しい。塔子が一人になったのはほんの一瞬の事で、その後はまた人々の群れに飲まれていった。


「からくり」カテゴリ



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しろ☆うさです

今回のおはなしは、一話読み切り。だけど、久し振り?に「からくり」シリーズです。

あまり、からくってないけど(笑)。

今回で、このシリーズ、3回目ですが、回を重ねる毎に質が落ちている感が否めない(笑)。

うーん。なんとか最後の段落でからくったつもりなのですが……どうだろ? からくれてない?

そもそも、からくるってどういう意味(笑)? 根本的にわかってないかもなー自分(笑)。

今回もタイトルが思い浮かばず……なんだか変なタイトルになってしまいました

この内容でこのタイトル……書いてる本人が一番嫌味なのではないかと(爆笑)。

ま。こんな感じで。深く考えても出ない答えならもう適当で(笑)。

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ありがとうございます!!

しろ☆うさでした~~ヾ(・∀・)ノ



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