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vol.83 嵐の夜


引っ越して二ヶ月が過ぎた頃、台風がやって来た。
それは直撃ではなかったものの、かなり大型の台風だった。家が高台にある事から、風の音は凄まじく、より一層恐ろしさを感じさせた。
それまで、塔子達は二階の寝室で寝ていたが、まるで真横に新幹線が走っているかのように、風に煽られた家はギシギシと不気味な音をたてた。子供達は怖がり、塔子を含め家族の誰一人として眠る事は出来なかった。
「こんなところで寝られるかっ」
彼は不意に叫び、布団を持って、一階へと降りて行った。残された塔子達は、唖然として彼が去って行く様を見送った。
「ねぇ。私達も降りよう。下で寝ようよ」
恐ろしさのあまり、涙声になっている沙耶がそう呟いた。海斗もこくん、と頷いた。
「そうだね……。じゃあ私達も、今日は下で寝ようか」
塔子はそう言って、布団を一階へと運び始めた。上ったり下りたりしながら、塔子はなんとか三人分の布団を一階へと運びこんだ。そして、彼の隣りに布団を並べ、四人で川の字になって横になった。一階で横になっても、悪魔の叫び声のような風の音はずっと聞こえている。そして、風で煽られて家は悲鳴をあげている。恐ろしさに変わりはなかった。
「怖いよう」
沙耶がぐすんぐすんと泣きだした。
「大丈夫だよ」
塔子は沙耶を抱きしめながら、わざと明るい声でそう言った。ここへ越して来て、初めての台風。新築の家とはいえ、高台に建つ木造の家が、どこまで持つのか塔子にもわからなかった。それでも、子供の前で不安がってはいけない。親の不安が、子供達に余計な心配を掛けさせてしまう。不安は伝染するからだ。
「ほんとー? おうち、壊れない?」
「本当だよ。大丈夫だよ」
塔子のその声に、彼は急に弾かれたように起き上がった。
「……えっ? どうしたの?」
塔子がそう尋ねても、彼は塔子の方を振り向きもせず、部屋から出て行った。一体、どうしたというのだろう。塔子は子供達にちょっと待っててね、と言い残し、慌てて彼の後を追った。彼は玄関に立ち、スリッパを履いている。
「ねぇ。急にどうしたの?」
彼は無言のまま、ドアを開けた。風がまともに当たっているのか、初めドアはなかなか開かなかった。それでも彼はなんとかドアを開け、そのまま外へと出て行った。途方に暮れた塔子は、その場で立ち尽くした。一体、どうしたというのだろう。何故彼は、何も言わないのだろう。塔子は諦めて子供達の元に戻ろうと踵を返した。ちょうどその時、不意にまたヒュオォォ、と凄まじい音が背後に鳴り響き、彼が現われた。手には懐中電灯を持っている。そうか。きっと家の周りを確認していたのだな、と塔子は思った。
「おかえり。どうだった?」
塔子がそう尋ねても、彼は黙ったままだった。そして塔子を押し退けて、すたすたと廊下を歩き始めた。
「……ねぇ。怖いね……?」
塔子は思わず彼の背にそう問いかけた。そう呟いた瞬間、何故か涙が零れた。それは初めて体験する自然の脅威に対しての恐れから出た涙ではなかった。塔子が何を言っても、何の反応もしない彼の態度の冷酷さが、理解出来なかったのだ。一体、私が何をしたというのか。何が気にくわないというのだろう。さっきから、私は馬鹿みたいに、一人でずっと喋っている。彼はそこにいるのに、何の返事もしようとはしない。聞こえていないわけじゃない。聞こえているのに、なぜ無視されるのか、塔子には理解出来なかった。そうだね、怖いね。でも、僕がいるから大丈夫だよ、などと甘い言葉を期待しているのではない。彼は絶対にそんな事を口にしない人だという事はわかっている。それでも、せめて自分の妻や子供達の前では、頼れる一家の主を演じてくれればいいのに。嘘でもいいから、大丈夫だよ、と優しく包みこんでくれればいいのに。

「……怖い、だって?」
不意に彼が振り返り、クスッと冷笑した。
「えっ……?」
「お前が、怖いなんて言う資格なんか、どこにもないんだよ」
「それ……どういう意味?」
塔子の問いかけに、彼はハァ~っと大袈裟に溜め息をついてみせた。
「……この家を買うって選んだのは、お前だろ? もう、忘れたのか?」
彼はそう言うと、ブツブツと塔子に聞こえるように独り言を呟きながら歩き始めた。
「……ったく、だからオレはこんな家、嫌だったんだよ! なんでオレがこんな怖い目に合わなきゃならないんだ! それもこれも、みんなお前が悪いんだろうがっ! なんで、そんな簡単な事にも気付かないんだよ……」
塔子はサッと自分の頬が熱くなるのを感じた。そうか。そうだったんだ……。塔子は恥ずかしさのあまり、言葉を失った。彼は塔子を残してすたすたと部屋の中に入って行った。塔子はその場でじっと立ちすくんだ。

そうだ。確かにこの家を選んだのは、間違いなく自分だ。高台に建っているのだから、台風の影響をまともに受ける事まで深く考えずに、自分はここを気に入って、選んでしまった。まさしく彼の言う通り。これは、自分で蒔いた種なのだ。
ならば、自分に泣く権利など、ない。彼に同調して欲しいなどと、思う事さえ間違っているのだ。彼に男らしさを求めたり、一家の主としてでんと構えて欲しいなどと、ちらとでも考える方が間違っているのだ。私が、間違っているのだ。

頬の上気と共に、涙は枯れた。塔子は自分の振舞いを、深く深く反省しながら、誰もいない廊下にぽつんと佇んでいた。


「引っ越し」カテゴリ



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あけましておめでとうございます

いつも訪問していただき、ありがとうございます。しろ☆うさです

年末から更新が滞り、申し訳ございませんでした

書きたいのは山々だったのですが、年末年始は色々とやらねばならない事がたんとあり……ま、言いわけなんで、ここらで止めます(笑)。

しかも、これから3月末くらいまで、仕事が山積みなので、あまり更新出来ないかも……です

なんとか、時間を見つけて頑張りたいとは思うのですがね……どうなる事やら(笑)。

今年最初のおはなしは、「嵐の夜」。

時期的にどうよ?って感じの内容なのですが(笑)。書いてしまいました。

新年一発目から、ブルーな内容ですよねー。すみません(>_<)

いや~~しかし、このブログ、いつもこんな内容なので。おめでたいお正月でも(もう遅いか!?)、いつもと同様、こんな感じです(笑)。

今年ものんびり更新していきますので、これからもよかったら覗きに来て下さると嬉しいです

更新が滞っていたのにも関わらず、いつも訪問して下さる皆様、時々覗きに来て下さる皆様。心から感謝しておりますm(__)m

そして、ランキングや拍手などを押して下さる方にも、いつも心から感謝していますm(__)m

ありがとうございます(^O^)/

今年もおはなし 「ひとしずく」、どうぞよろしくお願いいたします(@^^)/~~~



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