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vol.73 造花のブーケ (からくり 2)

塔子の結婚が決まった。休日は、式場探しに明け暮れた。式場が決まると、今度は細々とした取り決めが待ち構えていた。ドレス選び、披露宴の段取り、食事のメニューなど、決めなければならない事は山ほどあった。この時期に喧嘩をしてしまうカップルも多いと聞く。例にもれず、塔子もほとほと嫌気をさした。

塔子は式にこだわりはなかった。そもそも結婚式すら、しないつもりでいたのだ。しかし、彼の両親はそれを許さなかった。長男の結婚式は、是非ともちゃんと行ってもらいたがった。彼の両親がそれを強く望むのであれば、仕方がない。塔子は折れて、式を挙げる事で話がついた。

塔子が住む賃貸のマンション代。そして、母の病院代や、入院費に、生活費。塔子にはそれほど持ち合わせがあるわけではなかった。だが、式を行うと決めたからには、なんとかやりくりしなければならない。彼の両親も式代を援助すると申し出てくれた。彼がやろうと言い出した結婚式は、塔子に新たなお金の心配を植え付けた。にもかかわらず、彼の財布の口は少しも開く事はなかった。彼は自らの蓄えを減らす事なく、全て親が支払う事になったからであった。

お手頃なプランを出してもらっても、結局オプション代で見積もりの金額は膨れ上がった。これを削って、あれも削って、と考えるうちに、塔子は結局自分が何のために式を挙げるのか、さっぱりわからなくなってしまった。彼は塔子を喜ばせようと思って式を挙げる、挙げてやるんだ、と考えているようだったが、結局のところ、彼がそれで失う物は何もない。自分は別にしたくはない。でも塔子のためにしてやるんだ、という考えは、彼の口調や態度から溢れんばかりに滲み出ていた。恩を着せる物言いに、塔子は唖然とした。彼は自分が男らしく、良い行いをしていると、本気で信じているのだ。それならば、彼のプライドを傷つけるわけにはいかない。

痛い思いをするのは塔子だけであった。それでも塔子は心の内にそんな思いを秘めている事を、おくびにも出さなかった。真剣に自分が正しいと信じている人に、面と向かって間違っていますよ、とは言えなかった。自らの発言でショックを受ける人を見たくはなかった。恥ずかしがる人を見たくはなかった。怒りに震える人を見たくはなかった。それでいつものように、私は何も気付いていない、何も傷ついていない、という演技をし続けた。

両家揃っての集合写真。ライスシャワー。当日のビデオ撮影。アルバムの枚数。削れるものは、全て削った。何かを削る度に、塔子の中で例えようのない虚しさが広がった。一体私は、何をしているのだろう。何のために、結婚式を挙げるのだろう。入場の際、花嫁が持つブーケも造花にした。生花だと、倍以上は掛かるからであった。なにも、塔子は好き好んで造花を手にして式を挙げたいわけじゃない。しかしどうしようもない事だと割り切った。

式場の係の人と話し合いを進める内に、彼はある言葉を繰り返すようになった。この前の取り決めであれとあれを削ったけど、オレの親父がちゃんとやれって言っていたぞ。オレの親父が言うには、これはやっておいて損はないと言っていたよ。オレの親父の意見では……オレの親父が言うには……。その言葉は幾度となく繰り返された。ある日、式場を後にした塔子は、もう我慢がならないとばかりに怒りを爆発させた。
「オレの親父、オレの親父って、あなた毎回、毎回、同じ事しか言えないの!? 誰が結婚するの? あなたでしょう!! オレの親父は関係ない話じゃないの!!」
塔子の剣幕に、彼はサッと顔を赤らめた。そういう発言が飛び出すとは、予想だにしていなかったのだろう。彼は一瞬黙りこんだが、やがて塔子と同じテンションで怒りを顕わにした。
「なんだ、その言い方は!! お前が喜ぶと思って、わざわざ結婚式を挙げてやるのに!! 全部、お前のためなんだぞ!! それに、お前はもうすぐ鈴木家の嫁になるんだから、オレの親父とは関係なくはないだろう! オレの親父は、心配してくれているんだよ。お前に本物のブーケを持たせてやりたいなぁって、そんな小さな心配までしてくれているんだよ! そんな優しい心遣いを、なぜお前はわからないんだ? なぜ有難いと思わないんだ?」
彼は塔子の極悪非道ぶりを責めた。声を荒げて責め続けた。彼が声を荒げる毎に、逆に塔子の心は静まっていった。何も感じない。もう、何も感じない。自分が悪かったのか、彼が間違っているのか、それすらも、もうわからない。塔子の顔つきが冷めていくに連れ、彼のボルテージも次第に落ち着いてきた。
「……わかるだろ? よかれと思ってオレの親父は言っているんだよ。オレの親父とは関係ないなんて、そんな冷たい言い方をするなよ。これから家族になるっていうのに」
彼は優しく塔子の肩を抱いた。
「オレは親父の事を本当に尊敬しているんだよ。立派な人間なんだ。わかってくれよ、な?」
「……」
「本当に、オレの親父は心配していたぞ。造花のブーケなんか持って、あの子は結婚式を挙げるつもりなのかって。ほら、オレの姉貴の時は豪華で立派な式だったからさ……オレ達の式があまりに質素で心配してるんだよ。恵子の時は素晴らしい式だったから、塔子ちゃんにもそれくらいの立派な式を挙げさせてやりたいなぁって。実際、優しい父親だと思うよ、オレの親父は」
「……そうだね」
この人に、何を言ってもわからない。きっと、一生分かり合う事はないのだ。塔子はそう思いながら呟いた。必死になって意見をぶつけたところで、彼の中には入っていかない。理解出来ないのだろう、多分。塔子の言葉を仲直りだと捉えた彼は、塔子の肩を抱いたまま、爽やかな笑顔で駐車場を目指して式場の廊下を歩き始めた。
「もうすぐ結婚するんだから。仲良くしないとな」
「……そうだね」
「オレの親父とも、仲良くしてもらわないと、困るな」
「……そうだね」
塔子の体は強張り、返事は口先だけになっていた。分かり合えない悔しさで、涙が出そうだった。彼の思考のズレに対してもそうだが、通称優しさというベールの下で、実際は何を考えているのかわかったものじゃない彼の父親の発言にも、ただただ驚くばかりだった。こんなに卑屈な人間っているのだ。まるで吸血鬼が獲物を狙うかのごとく、自分を高く見せよう、高く見せようと無意識の内に認めてくれる誰かを探しているのだ。なんて卑屈な人間なんだろう。

結局、式は造花のブーケで執り行われた。彼の父親は、満面の笑みを浮かべ、さも興味深そうに塔子の手元を見ていた。手元ばかりを見ていた。


「からくり」シリーズ



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しろ☆うさです

いつも訪問して頂きまして、ありがとうございます

今回は一話読み切りです。

いつもネタに困る、一話読み切りの方です(笑)。

よし、こんな感じでいくか! と決まってからは、案外すんなりと書く事が出来ました。書きながら、キーワードはこれだな、とタイトルもすぐ浮かんだしね。

しかも、書きながらふと思い出して……「からくり」シリーズがまだたった一話しか登場していない事に……(笑)。

今回の話なら「からくり」の中に入れてもいいかな~と思って、めでたく?二話目が完成しました。

……うん。安直な成り行きでした しかも、内容もちょっとわかりやすすぎるという……。

ある意味、からくってない(笑)。

まだ一話目のからくりの方がよく書けてたなぁ……。あ、それも自己満の世界ですがね(笑)。

内容に関しては……内容にはあまり触れたくないのですが(捉え方って人それぞれ違うものだと思うので)、いつものようにイラッとしながら書いていました

誰に? はさておき、書いた後、いつもぐったり疲れてしまいます……ハハハ……。ちょっと引きずるしねー。

題材が濃いからね(笑)。まるでパンチを浴びているみたいに、書きながらイテテテ……ってなります(笑)。

アップした後、しばらく引きずって悶々として、一定期間を過ぎるとすっかり忘れているという(笑)。

だいたい週1のペースで更新していますが、次の更新の時には前回何を書いたかなんて、すっかり忘れていますよ。

で、自分で読み返してみて、また腹立ってみたりとか(笑)。

これ繰り返していると、一生新鮮な気持ちで遊べるね(笑)。

……どーでもいい話、すみません☆

いつも訪問して下さる方、そしてランキングや拍手を押して下さる優しい皆さま、いつも心から感謝しています ありがとうございます!!

しろ☆うさでした~~+゚。*(*´∀`*)*。゚+



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