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vol.72 母の入院生活 16

塔子の手元には四冊のパンフレットがある。その内二つは医療法人の介護老人保健施設のもので、一つは市営の介護老人保健施設のものだった。残る一つは住宅型有料老人ホームのもので、まだオープンしてはいなかった。

パンフレットを開けて見てみると、どこもだいたい書かれている内容は同じだった。利用対象者は、介護保険の要介護度1から5の方です、となっている。短期入所サービスや通所のデイケアでは、要支援1、2も対象となっている。ソーシャルワーカーの上田の勧めで、まずは医療法人の施設の一つから連絡を取るようにした。上田がそこを勧めたのには理由があった。今母が入院しているリハビリ専門医院からそこへ移った患者の実績があったからであった。つまり、向こう側と上田との間に接点があるからだ。そこは塔子の住む町から電車で30分ほどの所で、駅を降りてからも20分ほど歩かなければならない場所だった。行き着くまでに小一時間ほどもかかってしまうのだ。それでも塔子は上田の言う通りにまずはそこから面談の予約を取る事にした。過去に患者が転院した実績があり、内部事情に詳しいところの方が安心出来ると思ったからだ。

塔子はその老健に電話をし、面談の日時を予約した。原則老健は65歳以上からが入所対象となっているので、塔子は自分の母がまだ50代である事を最初に告げた。取り敢えずお話を伺いたいので、直接会ってから相談はお聞きします、と言われた。アポを取り、その後上田にその旨を連絡すると、健康診断等の持って行く書類を作成するので、そこへ行く前にこちらに来て下さい、と言われた。塔子はまた上田と日時を決め、受話器を置いた。

面談にどれだけの時間が費やされるのか、初めての経験で塔子にはわからなかった。まだ鍵を持たない小学一年生の沙耶と、親のお迎えがなければ園から出る事すら出来ない幼稚園の海斗には、またもや放課後教室や居残り保育を頼まなければならなかった。今まではなんとか自転車で通える範囲内の出来事だったが、これから出向くのは遠方になる。渋る子供達をなんとか納得させ、塔子は上田から書類を受け取り、初めての面談に挑んだ。

今いるリハビリ専門医院の主治医に記入してもらった診療情報提出書、担当のケアマネージャーに作成してもらった日常生活動作状況書、そして食事調査票などが、上田に用意してもらった書類だった。塔子が自分で用意しなければならなかったのは、母の介護保険証と母と自分の印鑑だった。それらを鞄に詰めて、塔子は電車に揺られた。急行が止まらない駅だったので、塔子は各駅停車でそこへ向かった。イヤホンを耳に差し込み、塔子は流れる風景を見つめながら音楽を聴いた。が、実際は何も聞こえてはいなかった。全く別の事を考えていたからだ。登校前のキツイ沙耶の表情。朝からぐずぐずと鼻を鳴らしていた海斗の泣き顔。そんな様子を見てもいつも通りに出掛けて行った、彼の姿。あぁ、今日は母の元へ顔出しは出来ないな。この面談だけで、時間が取られてしまう。昨日も懇談で行けなかったから、きっと母は苛立っているに違いない。母のために時間を潰して右往左往している事なんて、当の本人は知りもしないのだから。

電車を降りると、パンフレットに載っていた地図を頼りに、塔子は歩いた。途中までは大通りをひたすらまっすぐ歩くので、迷う事はなかった。目印に記載されていたガソリンスタンドを曲がると、そこからは静かな住宅街になっていて、目印になるような物は何もなかった。塔子は携帯を取り出し、地図で確認しながらやっとそこへ辿り着いた。そこは入り組んだ民家の突き当たりにあった。わかりにくい場所だったが、静かで明るい印象だった。

受付を通ると、応接室に通された。しばらくそこで待っていると、担当の女性が現われた。小柄でショートカットのその女性はまだ若く、塔子と歳も変わらないように見えた。彼女は名刺を差し出し、塔子の前の席に座った。名刺には、支援相談員という肩書がついていた。塔子は上田から渡すように言われていた書類一式をその相談員に渡した。彼女はそれをじっくりと眺めた。
「患者の田中さんは、鈴木さんの実のお母様という事ですね」
「はい、そうです」
「今は○○リハビリ病院に入院されていらっしゃる」
「そうです」
「……お歳の事を心配されていましたね?」
「そうなんです。母はまだ65歳になっていません」
「担当の者に書類を見てもらわないとなんとも言えませんが、おそらく年齢の面においては大丈夫だろうと思います。特定疾病の場合、40歳からでも入所出来るので」
「そうなんですか!」
「ただ、お母様の場合、肝臓の数値や糖尿病など……色々と問題がありますね。これがどう響いてくるかですね。お預かり出来る範囲内であるかどうか……次の本人面談次第だと思われます」
「その本人面談というのは……?」
支援相談員は塔子の前に一枚の書類を手渡した。そこには利用までの流れが書かれていた。
「今、ここの段階です」
彼女は面談、という場所を指差した。
「次は、二次面談となります。これはご本人様と一緒に面談します」
「……という事は、仮にこの面談が通っても、まだ次の面談があるという事ですね? それに通らなければ入所は出来ないと。そして、その二次面談には、母もここに一緒に連れて来なければならないという意味ですね?」
「そうです」
彼女は塔子に介護保険証を見せるように言った。塔子が渡すと彼女は書類と一緒に判定会議にかけるので、コピーを取っても構わないか、と尋ねた。塔子は頷いた。

彼女が保険証を持って出て行ってしまうと、塔子は思わず溜め息をついた。そして、頭を抱え込んだ。また、子供達を放課後教室や預かり保育へ行かせなければならない。そして母をここに連れて来るために、またもや介護タクシーの手配をしなければならない。そしてどれだけ頑張っても、判定で落ちてしまえばそれら苦労は全て水の泡となるのだ。

塔子は長い長い溜め息をついた。その日その時を境に、塔子はこれまで以上に時間に追われ続ける身となった。長く暗いトンネルの中を、塔子は必死に走り続けた。ダリの絵のごとく歪んだ時計が、塔子をめがけて追いかけて来る。塔子が必死に走っても、それらを振り解く事は出来なかった。悪夢の幕開けだった。



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しろ☆うさです

今回は「母の入院生活」シリーズの続きです。

たくさんあるシリーズの中でも(←カテゴリの欄から入れます☆)、これだけはめちゃ長く続いているんですよねー。

もうなんだかんだで16話まで来てしまいました。

やっと今で半分くらいは来たのかな……?って感じです。

長い話だなぁ……

皆さん、そろそろ飽きて来てるかなぁ(笑)!?

うーん。でも飽きられようと、もうここまで書いちゃったんだし、最後までやり通そう! と思っています。

こちらのシリーズの方は結構先の先の方まで内容を練っているので、プランをそのまま書いているだけ……って感じなのですが(それでも思っていたように書けなくて四苦八苦している)、間に挟んでいる読み切りの方は……いつもネタ切れでヒーヒー言ってる状態です(笑)。

ほんと、毎日更新される方、尊敬なのです。私にゃ無理だー(笑)。

だもんで、これからもちょっとずつ、ちょっとずつ、進めて行きたいと思っています

今回の内容に対しては、ちょっと硬かったかな、という感じです。もうちょい柔らかく書けたらよかったのですが、内容が内容だけにねぇ……どー書けば柔らかくなる!? 無理やろw って思う。

しかも書きながらふと思ったのですが、「母の入院生活」と謳っておきながら、肝心の「母」がほとんど登場していないという……(笑)。

……まぁ、いつか出て来る事もあるでしょう←めっちゃ適当(笑)。

話自体は計画通り?進んでいるので、気にしない、気にしない(笑)。

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ではまた~~ヾ(・∀・)ノ



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