FC2ブログ
<< vol.71 犬も食わない :: main :: vol.69 三つ巴 >>

vol.70 母の入院生活 15

数日後、市からの委託を受けた介護認定を行っている業者から連絡が入った。塔子とその業者は電話で日時の相談をした。自宅で介護をしているわけではない。それでも、やらねばならない細々とした仕事は、次から次へと入ってくる。塔子はカレンダーに印を付け、そっと受話器を置いた。

それとは別件で、塔子は何度も病院から呼び出された。主治医からの呼び出しもあれば、ソーシャルワーカーからの呼び出しもあった。皆、それぞれ各々の仕事をこなしている。あちこち別の部署から呼び出されるのは、ある程度仕方のない事なのだ。それでも小さな子供を抱える身では、時間の配分に苦労する事が多々あった。

介護認定が下る前に、病院でのリハビリテーション実地計画書が作られた。それを見てみると、そこにはあらかた予想通りの評価が下されていた。10段階で記されているそれらの数字は、ほぼ1や2などの低い数字で埋まっていたのだ。移動に関しては、歩行1、車椅子1。移乗も、車椅子1、トイレ1、浴槽1であった。食事は5、更衣は1、トイレの動作は1。

そんな低い数字が続く中、母は認知に関しては高い数値を示していた。記憶力7。交流5。理解力7。脳梗塞で半身不随になってしまってから、母は言葉が明確に出なくなっていた。それでもそれは構語障害を生じているだけであって、理解は出来ているようであった。

数日後、介護認定の審査が行われた。40代後半か、50代くらいだろうか。ショートカットの中年女性が病室に現われた。ちょうど運悪く、母が排便をしている最中の事だった。
「申し訳ないですが、少し待っていて下さい」
カーテンをほんの少し開けて、塔子が囁くと、彼女は黙って頷いて、病室を後にした。看護師が処置をする。四方をカーテンで閉め切っていても、四人部屋の病室には匂いが広まっていく。処置の済んだ看護師が出て行くと、塔子はカーテンを開けて、廊下で佇む女性に声を掛けた。
「すみません。お待たせしました」
彼女はこくっと頷き、病室へと入って来た。そして手にした書類を見ながら、麻痺の状態や寝返り、座位の保持や立ち上がり、歩行や食事などを細かく調べていった。その後、彼女は母に直接質問を始めた。名前。生年月日。今いる場所の確認などであった。彼女は数値を細かく書き込み、後日認定の結果を連絡する、と言って帰って行った。

しばらくして送られて来た書類には、「要介護5」の認定が付いていた。母は、最も介護を必要とするレベルとして認定されていた。

ソーシャルワーカーの上田からの呼び出しは、主に退院後の母の行き先についての話だった。引っ越しをして家が広くなったとはいえ、塔子は母を引き取る事は極力避けたかった。彼と母との間に板挟みになる事は目に見えていたし、子供達に不便な生活を送らせるのも気が引けた。しかし、それらは塔子がその気になれば、なんとでもなる事柄だ。実際、塔子が引き取りを拒否した最大の理由は、そもそも塔子に引き取る気がないからであった。今までの母との関係性において、引き取る気にはなれなかったのだ。塔子は自分にその気がない理由は言わなかった。言ったところで、一体どうなる? しかし、引き取るつもりはない事だけは、ワーカーにはっきりと伝えた。上田はおっとりと家族構成の書類に目を通し、無理に引き取る事を勧めてはこなかった。
「通える範囲内がいいですよね。やっぱり」
彼は引き出しを開けて、パンフレットを数冊取り出し、塔子の目の前に並べた。
「あれからね、色々探してみたんですよ。塔子さんの家から近くて、通えそうなところ」
塔子はパンフレットを手にした。それは、介護付きの病院のパンフレットであった。
「選り好みをしている場合じゃないからね。入院期間は三カ月だし。順番に当たっていかなきゃね。三か月なんて、あっと言う間に過ぎてしまう」
「はい……」
塔子は渡されたパンフレットにざっと目を通しながら答えた。
「入れるか、入れないかは、塔子さん次第だよ。面談があるからね。取り敢えず片っ端から電話をかけて、面談のアポイントを取るんだ。アポが取れたら、僕に連絡を下さい。持って行く書類を作成するから」
「……わかりました」
パンフレットを鞄に仕舞い、塔子は上田に頭を下げた。

病院を後にすると、雨足の強まった町に、塔子は足を踏み出した。雨は激しく降り注ぎ、傘をさしていても濡れてしまうほどだ。数歩歩いたところで、その日塔子はまだ母に顔出しをしていなかった事に思い当った。塔子は立ち止り、振り返った。そして一、二歩病院に向かって歩みを進めたが、また思い直して立ち止った。時計を見ながら何度かそれを繰り返し、やがて塔子は病院に背を向けて歩き出した。


母の入院生活シリーズ

母の入院生活シリーズ



↑↓いつもありがとうございます
にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ
にほんブログ村

いつも最後までお読み下さり、ありがとうございます(*^_^*)

しろ☆うさです

今回は「母の入院生活」シリーズの続きです。

……なんか、書きにくかったわぁ……。

夏にサボってからというもの、ものすごーく書くのが遅くなったというか、書くのが難しくなったというか。

内容的なものからなのか、気持ち的なものなのか、どっちもなのか(笑)。

なんかよくわかりませんが、最近なかなか筆が進まない~~~

……まぁ、なんとか書けたので、アップさせて頂きます(笑)。

これからこのシリーズ、じわじわと二回目の山場に向かって進んでいきます。

一回目の山場ってどこだったの?と聞かれたら、それはそれでちょっと困るのですが……(笑)。

うん……。今回もそうだけど、これからますます、塔子ちゃん、困難な状況に陥っていきます。

で、主人公なのに、結構悪者になっていきます(笑)。

何を持って善と悪に振り分けるのかという細かい事は置いといて(笑)。

平たく言うと、塔子ちゃんの悪の部分が、これから少しずつ現われていく……かも……って感じです。

じんわり、のんびり書いているので、まだまだ先の話になるかもですが。

いつも訪問して下さる方、ランキングや拍手を押して下さる方、感謝しています。ありがとうございます!

しろ☆うさでした~~~((⊂(^ω^)⊃))



↑↓いつもありがとうございます
にほんブログ村 介護ブログ 介護と育児へ
にほんブログ村
スポンサーサイト



コメント

コメントの投稿












トラックバック

この記事のトラックバックURL:

 |   |