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vol.69 三つ巴

彼は結婚してすぐ、露骨に態度が変わった。友達と二人で会社を辞めて独立をしたが、全く仕事がないため、いつもフラフラしていた。塔子が働いたお金は、全て生活費と母のために消えた。彼は塔子が苦労したり、辛そうにしていたりしても、何も感じないようだった。何も感じていないのか、逆に辛い環境に立たせている方が安心出来るようだった。

なぜだろう? 塔子が笑ったり、楽しそうにしていると、彼は急に不機嫌になる事が多かった。塔子がはしゃぐと、必ず水を差してその喜びを消してしまうのだ。辛そうにしていたら、もっと頑張れ、頑張れ、と発破をかける。楽しそうにしていたら、全力でそれを阻止する。相談事をすれば、なかった事にされる。会話をしても、結局最後までまとまる事はない。

虚栄を張っているのだろう、と塔子は思っていた。会社を辞めてしまった手前、虚栄を張らない事には体裁を保てないのであろうと。しかし、実際に一緒に暮らしていく歳月が増えるに伴って、塔子は自分のその考え方が間違っているのではないか、と感じるようになった。

もし仮に、彼が会社を辞めていなければ、否、会社を辞めていなくても、彼はこういう人なのかもしれない。それは、目の前にわかりやすくぶらさがっていただけであって、それがそもそもなかったとしても、彼は元来そういう性分なのかもしれない。性分なのだから、仕方がない。自分が、我慢すればいいだけの話だ。完璧な人間なんて、どこにいる? 自分に欠点がないと言えるのか? 塔子は首を振る。そうだ。これは、持って生まれた性格なのだ。自分がその性質を変えられないように、彼もまた変わる事はないのだ。

それでも、目に見えない塵のようなフラストレーションは、確実に塔子の心の奥に溜まっていった。溜まっている事を知らず、気付いていても目を背け、やがてそれは手の施しようがないほど降り積もっていった。元の色がわからないほど、それは蓄積されたのだ。毎日掃除をしていれば簡単にとれたであろう埃も、先延ばしにすればするほど、頑固な汚れとなって容易には落ちそうにもなかった。そうなれば、ますますそこから目を背ける。悪循環だった。

塔子の会社は、たまに休日出勤もあったが、大抵の土日が休みであった。土曜日になると彼はいつも一人で出かけてしまうので、その日は時間をまるまる自由に使う事が出来た。平日はなかなか進まない掃除をする。洗濯物も日中に外に干せる。気分転換にブラッと外出して、友達とお茶をしたりする。まだ新婚で子供もいない塔子にとって、土曜日は安息日だった。時間に追われる事もない。
それでも、彼の不在を狙って、母が唐突に現われる事もしばしばであった。今、近くに来ているの、と電話が入る事もあれば、本当に急にインターフォンが鳴る事もあった。

母が訪問するたび、塔子は苦い薬を無理矢理に飲まされたような気分を味わった。それは、甘い猫撫で声でやって来る。元気にしているの? と、まず母は塔子を気遣うかのような素振りを見せる。しかし、それは母の駆け引きだという事を、塔子は嫌というほど知っていた。母は手ぶらでやって来る事もあったが、なにかしらの手土産を持参する事もあった。そして、手土産を持っていればいるほど、要求してくる金額も高いのであった。塔子がそれを渡すと、母はホッとした顔をして、急に饒舌になるのが常であった。塔子が聞いていようが聞いてなかろうがお構いなしに、それは機関銃のように続いた。話は、自分の体の不調から始まり、会社の気に入らない人の話題でだいたいが埋め尽くされた。その間、母はほぼ100%の割合で自らの事を喋り続け、塔子に話を振る事は一度もなかった。母は自分の愚痴を、娘に吐き出しに来ているのであった。そもそも開口一番の「元気にしているの?」も、本気で口にしているわけではないのだ。塔子が元気であろうが、風邪をひいていようが、そもそも母にはどうでもよい事なのだ。ただ、母は生活費が足りなくなって困っているだけであって、そしてオブラートに包まずとも本音で愚痴を吐き出す相手がたまたま娘しかいない、という、ただそれだけの事なのだ。

塔子は母の訪問を心から嬉しいと思った事は一度もなかった。母は塔子から塔子の物を搾取する。そしてその代わりに、愚痴という欲しくもないゴミを、その空いてしまった隙間に突っ込んでいくのだった。

たまたま、彼が早くに帰って来る事があった。そんな時、母は逃げるようにその場を立ち去った。ニコニコと愛想のよい笑顔を浮かべて、母は彼に挨拶をする。彼も爽やかな笑顔でそれに応える。そして母が立ち去ると、彼は不意に態度を変えた。
「なんで、お前の親、いつも来るの?」
「えっ?」
「ここ、オレの家だぞ。勝手に上がり込んで、一体どういうつもりなんだよ。いつもいつも帰れば勝手に来ててさ。気分が悪いよ」
「……」

私だって、気分が悪いのよ。別に、母に来てもらいたいわけじゃない。でも、縁を切る事は出来ないのだから。良きにしろ悪きにしろ、血の繋がった肉親なのだから。無心に来てました、私も母が嫌いです、と彼に言えるはずもない。そうして、塔子は巧みに本心を隠してはぐらかす。彼の冷たい視線が降り注ぐ。

そういった三つ巴状態が、延々と続いた。



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しろ☆うさです

いつも最後までお読み下さり、ありがとうございます

今週はなんとか書けました(笑)。

……が、以前にも書いたおはなしに近い内容になってしまいました……

およそ1年ほど前に書いた、「vol.9 宙に浮いた言葉」、「vol.18 まだ早すぎる」と内容がね、ちょっと被っていると言いますか……。

もしどれだけ似ているのか気になる方がいらっしゃたら、読んでみて下さい↓

vol.9 宙に浮いた言葉

vol.18 まだ早すぎる

……ね!? かなり近いでしょ(笑)。

書きながら、近いなー。ヤバイなー。と思って、書きなおそうかとも思ったのですが、えぇいっ! このままいってしまえ~~!で、結局書きなおさず……(笑)。

ま、たまにはこういうのもいいかな、と(自己満)。

今度は全く違うネタが書けたらいいな~と思っています(願望)。

そしてそして……私事ですが、この「おはなし ひとしずく」が始まって、無事1周年を迎える事が出来ました~~

書いたおはなし、今回を含めて69作です……って、少なっ(笑)!!

毎日書いてりゃ、2か月ちょっとで到達する数字ですよね(笑)。

こんなノンビリ更新なブログですが、これからもノンビリ書いていこうと思っています

いつも訪問下さる皆様、そしてこんな駄作にランキングや拍手を押して下さる心優しい皆様、感謝しています。ありがとうございます!!

これからも、よろしくお願いしますのしろ☆うさでした~~(^O^)/



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