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vol.67 この家はあげない

「この家はあげないから」
初めて義母の発言に驚いたのは、この言葉だった。それからというもの、失礼な発言は数限りなく飛び出したが、いつも黙ってやり過ごしていた。それでも、初めての時は戸惑った。なにか自分に落ち度があったかと訝しんだ。何年も付き合っていくうちに、義母に悪気はなく、ただ頭に思いついた事をパッと言っているだけだという事がわかってきたが、義母とはいえ、最初は見ず知らずの他人だ。塔子は義母が何故、いつも突然自分を責めるのかがわからなかった。否、責めているのとは違う。それはまるで幼子が自分の要求を訴えるのが当然だと思っているように、口にする。慣れてしまった塔子は苦笑いをしてかわすのが上手くなった。

その言葉を義母が発したのは、誰もいない二階の一室だった。塔子はまだ彼と結婚してはおらず、使っていない食器やタオル類などを引き取りに来なさいと言われて出向いていた。別に欲しいと言ったわけではなかったが、義母の温かい気遣いがありがたかった。
同居している彼の姉は、珍しくその日は出掛けていていなかった。塔子が持参したケーキを皆で食べ、しばらく一階のリビングでくつろいだ。義父と義母と彼と塔子。なんてことはない世間話をしたり、近所の人の話題を聞かされたりした。合間合間に侵入してくる、微かに薫る自慢話は、愛想笑いでなんとか乗り切った。結婚前に彼の家に呼ばれたのは数度しかないが、いつも居心地が悪かった。しかし、そう思う自分に落ち度があると思っていた塔子は、さも楽しそうに振舞った。だが笑顔を絶やす事なく浮かべながらも、心の中では疑問符が飛び交う事が多かった。

何故、この人達は身内の自慢ばかりを繰り返すのだろう? 一回だけ、さりげなくポロっと飛び出すのなら話もわかるのだが、この人達は会えばいつもこの手の話題を披露する。そして、それを口にした人を、家族の誰もが止めもしない。咎めもしない。塔子はそれが不思議だった。人様に身内の自慢話をするのは恥ずかしい事だと言われて育った塔子には理解出来ない事であったが、その家には家の常識なりカラーなりがあるのだと、合わせる事でやり過ごした。しかし、なにやら気恥ずかしいような、見てはいけないものを無理矢理に見せられているような気がした。そもそも彼らの自慢は、塔子からしたら自慢にも当たらないようなものばかりであった。逆に、口にすればするだけ、恥の上塗りになるようなものばかりだった。それでも、自分より年長の者を見下したりしてはいけないと思い、自分を戒めた。

「そうだわ。あなたを呼んだのは、あげるものがたくさんあったからだったんだわ」
義母が突然、思い出したようにそう言った。
「二階にあるの。行きましょ」
義母は塔子を促した。義父と彼はリビングに残り、二人は階段を上がって行った。三室ある部屋の一室のドアを開け、義母は塔子を招き入れた。
その部屋は物で溢れていた。否、物で溢れているという表現は失礼かもしれない。きっと、このくらいなら普通のレベルであろう。本以外、極端に物を持たない主義の塔子の目には物が溢れているように映っただけの事なのだ。ただ、部屋の中を圧迫するくらいの箪笥やチェストの類が気にはなった。
「箪笥が多いでしょう」
塔子の視線に気が付いた義母は、まるで言い訳をするかのように早口で言った。
「うちのお姉さんが。恵子さんがね、帰って来た時に、増えたのよ」
「あ、そうですか……」
義母の娘の物だったのだ。彼女は離婚して、実家に出戻っている。幸か不幸か、子供はいなかった。
「あなた達はね、離婚なんて、しちゃダメよ。ちゃんと、仲良くしなきゃ」
「はぁ」
自分の娘や息子に言えばいいのに。なぜ、それを私に言うのだろう?
「やっぱり、夫婦は仲良くしないとね。それはそうと、このタオル、要らない? まだまだこの辺りにもたくさん入ってるわよ」
義母は化粧箱に詰められたままのブランド物のタオルの詰め合わせを塔子にどんどん渡した。ありがとうございます、ありがとうございます、と言いながら、塔子はそれを受け取った。正直、塔子から見れば一昔前の物で古臭く感じたが、義母の優しさが感じられ、塔子は素直に感謝の気持ちを持った。
「ほら。ここにも使ってない食器があるのよ」
確かこの辺りに……義母は扉を開けたり閉めたりしながら、これまた箱詰めされたまま眠っていた食器類を出し始めた。
「ありがとうございます……でも、そんなにたくさんは要らないですよ。二人だけなので」
「何言ってるの! すぐに子供を生んでもらわないとね。それにこんなにたくさんあるんだから、持って帰ってもらわなきゃ困るのよ。うちにあっても邪魔になるだけだし」
「あ……はい……」
箱を持つ手が一瞬、止まった。だが、びっくりしたのを悟られないように、塔子は作業に没頭しているフリをした。なんという言い草だろう。すぐに子供を生んでもらわないと? 邪魔になるから持って帰ってもらわないと困る?
「だけどね、塔子ちゃん。勘違いしてもらっちゃ困るのだけど……」
それまで威勢よくテンポよく喋っていた義母の口調が、いきなり変わった。歯切れが悪く、表情も一変した。さっきまでの生き生きとした顔が、なんだか気弱なような、それでいて媚びたような、嫌らしい顔つきになった。
「タオルも食器も、ここにある物、全部持って帰ってくれていいのよ。でも、この家はあげないわよ」
ニヤニヤと、まるで失敗を誤魔化す子供のような笑みを浮かべながら、義母はいきなりそう言った。
「……は?」
「この家を狙ったって、無理だって言ってるのよ。ここはいずれうちの恵子さんの物になるんだからね」
塔子は義母がいきなり何を言い出したのか、さっぱり理解出来なかった。この人は一体、何を突然言い出すのだろう?
「ね? わかった? この家は、あなたの物じゃなくて、うちの娘の物だからね」
「あぁ……はい……」
塔子はそう答えるのがやっとだった。なんと失礼な事を言うのだろう! 私は、なにもこんな家、欲しくもなんとも思ってやしないのに! 一度だってそんな事、チラと脳裏にも浮かんだ事さえないのに! 
「離婚はダメ。夫婦仲良くね。そして、家は、恵子さんの物。わかったわね?」
真っ白になってしまった頭の中に、義母の念押しの声が聞こえてくる。塔子は機械的に、頷いた。

彼と義父は一階でテレビを観ている。その笑い声が、遠くの方から微かに聞こえる。やがて二人は階段を下り、笑い声の中に戻っていった。



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しろ☆うさです

いつも最後までお読み下さり、ありがとうございます

しばらく更新が滞っておりました

夏休み?的な(笑)。

海に山に……と、夏をエンジョイしていました(笑)。

うん。楽しかったですよー。

またこれからは週1更新を目指して、日々コツコツと地道に頑張ります……ってホントかなー(笑)。

今回のおはなしは、一話読み切りです。

題名がね~なかなかよい感じのが浮かばなくて……。

もう、もろ、な題になってしまいました(笑)。

しかも、一週飛んだせいか、夏を満喫しすぎたせいか、なかなか「ひとしずく」モードになれなくて。頭の中が。

気分をそっちサイドに持っていくのが、難しかったです。

なので、今回は(も?)あまり出来がよくないかも……って、いつもの事かーー!?

いつも訪問下さる方、そしてランキングや拍手を押して下さる方、本当に感謝しています。ありがとうございます!

さぁ、来週は書けるかなー(笑)?

しろ☆うさでした~(^_-)



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