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vol.63 正論を述べる人(からくり 1)

それはあたかも正論のように述べられたので、塔子はすっかり自分に落ち度があったのだと信じ込んでしまった。礼儀を欠く行いを自分はしてしまったのだ、と思った。彼は塔子の恥知らずな行為を責め、鼻でせせら笑った。

彼と塔子の結婚が決まった。塔子は彼に連れられて、彼の実家へ遊びに行った。彼の実家には、彼の父親、母親、そして四歳年上の姉が住んでいた。彼の両親はざっくばらんな性格で、なんでも明け透けにポンポンと物を言う人達であった。対照的に、彼の姉は大人しく、いつ行っても自室に籠っているか、リビングでブランケットに包まりながら、レンタルショップで借りて来たビデオを眺めているかであった。彼らは塔子に優しかった。ただ、彼の母親は頭の中で一度考えてから言葉を発する、という事が出来ないタイプだと付き合い始めてすぐに塔子は気付いた。

「あなた、そんなに痩せていて大丈夫? ちゃんとご飯、食べてるの?」
「あなた、そんなに細い体じゃ、子供をちゃんと産めるのかしら。心配だわぁ」
塔子は何を言われても、穏便に済ませたいがために、無理に笑顔を作って聞き流していた。彼の母親の発する言葉に、彼の父親と姉はたしなめた。
「まぁまぁ、母さん。いいじゃないか。そんな事」
彼の父親はニコニコと、本当に嬉しそうな顔をしながら自分の妻を戒めた。
「そうよ、母さん。本当にダメね」
彼の姉もおっとりと笑顔を浮かべながら、そう言った。そして二人は、ごめんね、塔子ちゃん、と笑顔で詫びた。いえ、いいんです、と塔子も笑顔で返した。
いつも、その繰り返しだった。出会った頃も、結婚後も、父、母、姉、の三人の関係性は変わらなかった。彼の母親が思った事をそのまま口にする。彼の父や姉がとても嬉しそうにそれを制する。そして、ごめんね、塔子ちゃん、と笑顔で呟く。

それはまるで判で押したように、まるで恒例行事のように、いつまでも続いた。

ある日、もう結婚まであとわずかという時に、彼と彼の母親と塔子の三人で、買い物に行く事になった。買い物が済むと、彼の母親は、今から私の近しい人達のところを回って、結婚の挨拶に行く、と言い出した。急な話で塔子は慌てたが、彼が自分の母親の意見に従う姿勢を見せたので、塔子は黙って付いて行く事にした。

彼の母親は、次々に塔子を引っ張り回して、自分の友達に新しく嫁に来る塔子を見せて回った。近所の人達。飲み友達。カラオケ仲間。サークル仲間。スポーツクラブの仲間。中には塔子の存在そっちのけで喋り込む人もいたが、そんな人は稀で、だいたいが塔子に優しく接してくれた。スポーツクラブの仲間の一人のおばさんが、彼の母親に御愛想を言った。
「まぁ! 綺麗な子じゃないの! 羨ましいわ。うちの息子はいつになったら連れて来るのやら。本当に綺麗な娘さんねぇ」
彼の母親の顔が微妙に引きつった。彼の母親は自分の娘を心から深く愛していて、心から容姿端麗だと信じ込んでいた。いかなる時も褒められて当然なのは我が娘の方であり、嫁になる娘をおべんちゃらとはいえ褒められても、少しも嬉しくはないのだった。
「こーんなの! どうって事ないわよ! うちの恵子さんの方が、何百倍も綺麗だわ!」
彼の母親は必死になって叫んだ。今度は、おべんちゃらを言ったおばさんの顔が強張った。チラチラと塔子の方を窺い、すまなかった、というような合図を送って寄こした。塔子は苦笑いをして、ペコリとそのおばさんに頭を下げた。

騒動の後、彼の母親は気まずさを打ち消そうとしたのか、不意に三人で一緒にご飯を食べに行こう、と言い出した。断る理由も思いつかず、また断る理由もない事から、塔子は食事に行く事にした。三人はそこで楽しく食事をし、別れた。勘定は、彼の母親が出した。
後日、塔子は彼と二人で会っていた。先日はありがとう、ご馳走様でしたってお義母さんに伝えてね、と話した。彼は突然、渋い顔をした。
「あのさ、それって、オレに言う事じゃなくて、オレのおふくろに直接言う話だろ?」
彼は腕組みをして、塔子を睨みつけた。塔子はびっくりした。
「……え? だって、どう言うの? あなたの家の電話番号も知らないし、家にだってまだ1、2回しか行った事がないのに、突然訪問したらおかしいじゃない……」
彼は首を左右に振って、はぁ~っと溜め息をついた。
「そんなの自分で考えろよ。方法なんて、いくらでもあるだろ? オレはオレを通してじゃなくて、ちゃんとお前の口からおふくろにお礼を言ってもらいたかった!」
「……ちゃんと言うつもりだったよ。今度会った時に。それまで間が空くから、一度あなたの口から言っといてもらおうと思っただけじゃない」
「オレは、ちゃんとお前の口から、オレのおふくろに礼を言ってもらいたかった!」
塔子は両手を握りしめた。なぜ、彼は信じてくれないのか。今度会った時に、ちゃんとお礼を言うつもりでいたのに。彼は今独り暮らしを止めて実家に帰っている。毎日でも、親と顔を合わせている。アイツが礼を言ってたよ、とさりげなく言ってくれれば、それで済む話なのに。
「……わかった。じゃ、今からお礼を言うから、電話番号を教え……」
「もう、遅い」
塔子の声に被さるように、彼は短く言い放った。
「オレに言われてから嫌々礼を言うなら、もうしないでくれ」
彼は悩ましげな顔をして、塔子から顔を背けた。

それはあたかも正論のように述べられたので、塔子はすっかり自分に落ち度があったのだと信じ込んでしまった。礼儀を欠く行いを自分はしてしまったのだ、と思った。彼は塔子の恥知らずな行為を責め、鼻でせせら笑った。



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いつも最後まで読んで下さって、ありがとうございます

しろ☆うさです

今回は、一話読み切りを書きました。

そして、いつもと違って、ちょっと変なタイトルの付け方をしています。

今回はまぁ……普通に一話読み切りのカテゴリーで良いと思ったのですが、書いているうちに広げたい話が浮かんで来て、続きで行こうかな~と考えたのですが、そうすると「正論を述べる人」という題名と繋がらなくなっちゃうので、こういう妙な題名の付け方になってしまいました

この話は、一応今回で完結しております。が、全く別のおはなしとして、じわじわと続けていこうと思っています。

その名も「からくり」シリーズとして(笑)。

何がからくり!?って感じの全く繋がりのない短編を、時々書いてみようかなーって思っている次第です。

……いや、まだこれは構想中なので、どこまでやるかわかりませんが

もしかして、今回こっきりで、もうやらないかも!?

うーん。まだちょっと、わかりません(笑)。

一見、どこに(誰に)問題があるのか、最初はわからない……という風な流れになっている物は、この「からくり」シリーズに入れて行きたいなーと思っています。

いつも訪問して下さる方、そして拍手やランキングを押して下さっている方、ありがとうございます

本当に嬉しい気持ちです

これからも、「ひとしずく」をよろしくお願いいたします

しろ☆うさでした~(^o^)/



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