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vol.62 母の入院生活 11

目に付いた大型スーパーに飛び込み、二人はまず衣料品売り場へと足を運んだ。母は背が高いので、Lサイズにした方がよいのか、それとも痩せてしまった体型に合わせてMにした方がよいのか、しばし悩んだ。値段が安く、前開きの物。二人はあれこれと迷い、結局デザイン的にダボッとした物はMに、ぴったりした物はLサイズにした。パジャマを何着か選び終えると、次は日中に着る服だ。カットソーやTシャツ、上に羽織るカーディガン、それにズボンを数着。どれも看護師達が着替えさせやすそうな物を選んでいく。そして、車椅子で移動する際に履く、スリッパ。今度の病院はリハビリ専門の病院なので、以前と違って寝たきり状態でいる事はない。ほぼ毎日、リハビリ訓練が設けられている。それに、食事も必ず食堂へ出向いて食べる規則となっているようだ。移動が多いため、履きやすい簡単なスリッパを、と言われていた。二人はその売り場でもあれこれと迷い、なんとか適当な物を見つけ出した。ついでに、タオルや石鹸などの細々とした日用品も、揃えておく。レジで会計を済ませる際、ハサミを貸してもらい、袋に詰める前に値札を全て切っていった。店先で恥ずかしかったが、病院で借りてあれこれ理由を聞かれるよりはマシだ。母の家に帰って必要な物を取って来れない理由を、感情を、上手く説明する事など不可能であった。

二人は車に乗り込み、再び病院へと引き返した。母の病室へと入ると、ちょうど食事の時間なのか、母も同室の人達も、誰も部屋にはいなかった。塔子が衣類や備品にペンで名前を書くと、弟はそれを畳んだりチェストに仕舞ったりした。弟は引きだしを開けて片付けながら、どこに何を入れたか、塔子に説明をした。明日以降、自分は滅多にここには来れない事をわかっているのだ。塔子が来て困らないように、弟は律義に説明を繰り返した。ペンを動かしながら時折顔を上げ、塔子は弟を眺めた。この子が来てくれて、本当によかった。移動も、運搬も、そして精神的にも、助かった。塔子は思わずフッと微笑んだ。気を利かせて駆けつけてくれた弟に、感謝してもしきれない気持ちが湧きあがった。

片付けが全て終わると、二人は母を探した。母はやはり食堂にいて、介助をしてもらいながら、車椅子の上で食事をしていた。塔子が近づくと、職員は後はお願いね、と言って去って行った。塔子は母の胸元のズレた食事エプロンを直し、食器を傾けて動く方の手ですくい易いようにした。
「どう? おいしい?」
塔子が尋ねると、母は訝しそうな顔をした。
「わからないわよ」
母のふてくされた物言いに、塔子は思わず笑ってしまった。飲み込みが上手く出来ない母のために、目の前の食事は全てペースト状になっていた。確かに、傍から見ても、おいしそうには見えなかった。まるでついこの間まで自分が子供達のために作っていた離乳食のようだった。

食事が済み、部屋へ連れて帰ると、二人は母に別れを告げた。初めての場所に置いて行かれるのが辛いのか、母は涙を零した。
「明日、また来るからね」
塔子がそう言うと、えぇっ? と母が大声を挙げた。それは不満から来るというより、塔子の言葉がよく聞き取れなかったようだった。
「大丈夫。明日、また来るから」
母は涙の筋を枕にたくさん滴らせながら、頷くでもなく、何かを言うでもなく、ただじぃっと塔子を見つめ続けた。
「じゃ、またな」
手に不要になったオムツ類を持った弟が声を掛けた瞬間、母は我に返ったような表情になり、動く方の手を必死に伸ばして、弟の手に触れた。
「遠くから御苦労さま。気を付けて帰ってね」
意外にしっかりとした口調で、母は弟の手を撫でながらそう言った。弟はうん、と呟いて、病室を出た。塔子もその後に続いた。廊下を歩きながら、弟はフッと笑った。
「露骨だったな、おふくろ」
「えっ?」
「姉貴に対する態度と、オレに対する態度が、明らかに違う」
「あぁ、その事。仕方ないんじゃない? 昔から、そうだったじゃん」
「多分さ、おふくろは姉貴に対しては甘えてるんだと思う。立場が逆転してるっていうか」
「うん。きっと、そうなんだろうね」
「で、オレの事は、いつまでも子供のままだと思ってる」
「アハハ! そうそう! そんな感じ!」
弟は下へ降りるボタンを押して、腕を組みながら上昇してくるエレベーターのランプを見上げていた。
「色々、任せきりで悪いけど。オレも動ける時は動くから」
「うん、うん。あんたは何も心配しなくてもいいの。どうしても無理な時は連絡するから」
二人は辿り着いたエレベーターに乗り込んだ。弟はしばらく何かを考えているようだったが、やがて口を開いた。
「あのさ、腹、空かない?」
「えっ?」
「もう昼飯時、とっくに過ぎちゃってるけど、ちょっと食いに行かない? さっき、あったじゃん。スーパーの近くに、ファミレス」
「あぁ。あったあった! そういえばお腹空いたね。じゃあ、食べていこうか。あんた、時間、大丈夫なの?」
「うん。どっちにしたってどこかで食べるんだし。一緒じゃん」
「いいねー。たまには二人っていうのも。デートみたいだね」
フンっと鼻をならして、弟は車に乗り込んだ。塔子も後に続いて、弟の横に腰かけた。

車は走り出す。病院が小さくなるにつれ、塔子の不安や緊張も、少しずつ小さくなっていく気がした。退院も、転院も、これでやっとカタがついたのだ。途中、不愉快な目にもあったが、概ね自分は上手くやったんじゃないか。
不意に塔子は弟にまだ大事な言葉を伝えていない事に思い当った。
「ありがとう」
「えっ? 何が?」
「まぁ、色々と。全部、ひっくるめて」
弟は前方を見つめたまま、うん、と小さく呟いた。


※このおはなしは、「母の入院生活 1~10」の続きとなっております。

「母の入院生活」シリーズ



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しろ☆うさです

いつも最後まで読んで下さって、ありがとうございます

今回は、「母の入院生活」の続きです。

珍しく?そんなに暗い内容ではないです(笑)。

ちょっと塔子ちゃん、楽しそうです(笑)。

あ、塔子ちゃんのお母さんは泣いちゃってますけど

でもいつもよりはライトな内容となっております(笑)。

しかしこの話、長~い一日ですよね。

確か、母の入院生活5、あたりから、ずーっと同じ日の話が続いてるんですよ。

何カ月にも渡ってちょこちょこ書いているので思わず忘れそうになるのですが、これ、全部同じ日に起こった内容なんですね。

このシリーズはまだまだ続きます。でも同じ日のおはなしは、おそらく次で終わりかな、と思います。

まとめきれたならね(笑)。

この長い一日を締めくくるオチ?はもう考えてあるのですが……それを主人公の被害妄想風にならずに書けるのかどうか、ちょっとわかりません。

文才、ないんで(笑)。

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しろ☆うさでした~~(@^^)/~~~



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