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vol.6 怒りの矛先

先程から、彼は苛立っていた。
割り込んで来た車に舌打ちをし、信号に引っ掛かると、間隔を詰めて停車した。
そして強引に追い越すと、今度はピタリと横につけて、割り込んだ車の中を覗き込み、冷たい視線を投げかけた。
運転をすると、本当の性格が現われるという話を、どこかで聞いたような気がする。

睨みつけたり、煽ったりなど、一通りの嫌がらせが済んでも、彼の運転は荒かった。
後ろのチャイルドシートに我が子が座っていようが、そのチャイルドシートの横に妊婦の塔子が座っていようが、彼にはそんな事、どうだっていいのだ。そんな事、彼には関係のない状況なのだ。

派手にクラクションを鳴らしたり、急ブレーキをかけたりしながらも、彼の怒りは治まらなかった。そもそも、彼は割り込んで来た車に対して怒っているのではないのだから。そんなのは、後付けだ。
怒りの本当の矛先、それは、塔子に向けられているのだ。ただ、怒りがあまりに大き過ぎて、彼自身どうしようもなく、従ってそれは割り込みをした人物に対して、矛先の方向を一時変更したまでだ。
そしてその目論みが成功すると、次は本当のターゲット、すなわち塔子に鋭い矢先がサッと方向転換された。

彼は、ミラー越しに、塔子を睨みつけた。運転をしながらも、ぬかりなくそれは続けられた。その憎しみのこもった視線に耐え切れず、塔子は下を向いた。泣いてはいけない。泣いたら、負けだ。心ではそう思うのだが、彼のあまりの情けない仕打ちに、涙が頬を伝って落ちる。傷ついているところを、彼に見られたくはない。塔子は泣きたくはなかった。しかし、涙は塔子の心とは真逆の態度を取ってしまう。さりげなく、塔子はそっと中指の間接で、溢れ出てくる涙を拭った。そして、ミラーを盗み見るように確認する。彼の両目は、そんな塔子の姿をじぃっと捉えたままであった。塔子は再び俯いた。彼の舌打ちが、静かな車中に響き渡る。

自分は、そんなに悪い事をしたのだろうか。塔子は自問した。大袈裟につく彼の溜め息が何度も思考を遮ったが、塔子はかろうじて自分の行いについて思い出してみた。

その日、塔子は彼と子供の三人で、買い物へ出かけるために、車を走らせた。目的地に着くと、団体行動が苦手な彼は、1歳半の娘と車に残ると言い出した。塔子は一人で買い物に出かけた。米や牛乳など、普段は重くて大変な商品を買い込んだ。買い物を済ませた塔子は、カートに荷物を詰め込んで、駐車場へと押して行った。車内を見ると、彼と娘はいなかった。車には鍵がかかっていたので、塔子はその場で待った。しばらくすると、彼と子供が違う店舗から出て来るのが見えた。彼は歩きながら、ポケットに収まっているキーのロックを外した。塔子は後ろのドアを開け、荷物を車に詰め始めた。彼は塔子に近づくと、子供をぐいっと押しやり、一人で運転席へと身を滑らせた。塔子は子供を見守りながら荷物を全て詰め終え、子供の手をつないでカートを元の場所へと戻しに行った。そしてドアを開けて子供をチャイルドシートへと乗せた。

車は、駐車場の一番端に停めていた。二人目が入っている大きなお腹で、塔子はチャイルドシートに乗せた我が子のベルトをカチッカチッと留めていった。しかし、自分のお腹が邪魔で、最後のベルトがなかなか締まらない。塔子は焦った。彼がイライラしながらミラー越しにこちらを見ているのが、わかったからだ。塔子はドアをもっと大きく開け、奥へ体を入れればベルトがうまく締められるのではないか、ととっさにドアを大きく開いた。その時、ドアが駐車場の壁にガンっと音を立ててぶつかった。

「なにしてんだよ!」
彼の罵声が飛んだ。
「なにやらせても、遅せーんだよ! どけ!」
彼は塔子を押しのけ、ドアをバタンと強引に閉めた。
「あーあ。……ったく、なにしてくれるんだよ。あーあ……」
その場に茫然と立ち尽くす塔子に目もくれず、彼はドアを撫でまわしながら、あーあ、あーあ、を繰り返した。塔子が確認する限り、傷はどこにも見当たらなかった。
彼は舌打ちをして、子供のベルトを付けようともせず、運転席に戻った。塔子は諦めて自分もシートに座り、座った体制で最後のベルトを締めようと試みた。車はベルトが締められる前に、急発進した。




最期までお読み下さりありがとうございます。しろ☆うさです
まだまだ続く長いお話。塔子は幸せになれるのか???乞うご期待です。



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