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vol.59 答えを必要としない質問を繰り返す人

塔子が結婚した相手は、明るく、小さな事は気にしない、大らかな人物だった。

彼は自分で自身の事をそう分析していた。塔子もそう思っていた。結婚する前から、多少心に引っかかるような出来事はあったが、それらは些細な事、自分の心が狭いからだと思い、自己反省をしてすぐに忘れた。忘れられない事もあったが、それも自分が悪いのだと思って、無理に心の奥に押し込めた。どう考えても彼の方が悪いだろうと思う事も、結局はうやむやになった。何時間、何日、何週間考えてもやはり自分に落ち度はなかったのではないかと思い当った際、その件を持ち出すのは至難の業だった。彼は絶対に非を認めたりはしないからだ。明らかに自分が悪いとわかっていても、彼はそれに気付かないフリをする。聞こえないフリもする。逆ギレして反論してきたり、全く別の話題を持ち出して、そもそもの問題をすり替えたりもする。そういった彼の態度を何度か目の当たりにすると、塔子はもう何も言えなくなってしまった。自らアクションを起こすという、自己防衛すら、諦めてしまったのだ。

結果、いつも些細な事で過去の済んだ話を持ち出すお前が悪い、という位置付けをされる。
彼があまりに堂々と、自信たっぷりに塔子をそういう風に位置付け、そういう態度で接するので、塔子はまたも委縮してしまう。そして、本当に自分はダメな人間なのだ、と思い込んでしまう。彼に会うまで、塔子に対してそういった態度を取る人はいなかったので、逆に彼が新鮮に映る。塔子の思想の狭さや思い込みなどの悪いところを、臆面もなく堂々と言い放つ彼が正直者に映る。いつも自分の行いに自信たっぷりな彼を、尊敬すらする。一つの事柄に固執せず、話をスッとすり替える彼が、大人に見える。

オレは、大らかな人間だからな。小さな事は気にしないんだよ。
それに引き換え、お前はダメな人間だな。

オレは正しい。お前は何もわかっていない。
オレはくよくよ考えたりしない。くよくよ考えるなんてバカらしい。

頭からすっかりそう信じこんでいる人を、これほど迷いのない人を、塔子は疑う事もしなかった。疑うべきは自分の思想で、彼はきっと正しいのだ。だって、あんなに自信満々なんだもの。きっと、悪いのは自分の方なのだ。

お互いの仕事が休みのある日、塔子は彼とデートをしていた。彼の車に乗って、久し振りのドライブだ。助手席に乗り込んで、シートベルトを着ける塔子の姿に、彼はフッと笑みを漏らす。
「何? そんなにオレの運転、信用出来ないの?」
塔子はあはは、と笑った。彼が冗談を言っていると思ったのだ。しかし、彼の顔は真顔だ。
「え、だって、シートベルトをするのは当たり前の事でしょう? それに……」
「あぁ、あぁ。もういい」
彼はどうでもよさそうに、塔子の話を途中で遮る。前方を見据えながら、オレは傷付いたんだぞ、という表情を浮かべる。
この重苦しい空気が漂い始めると、彼はピタリ、と黙ってしまう。いつもの事だ。彼が被害者の役割を演じきるので、塔子は段々と自分の行いが悪かったのかな、と考え始める。沈黙が流れる。

長い長い沈黙に耐えきれず、塔子は当たり障りのない話を始める。彼は憂いをおびた顔付きで、前方を見つめたままだ。聞いているのか、いないのか。返事もしないので、それすらもわからない。

「ところでさ、この前のあれ、結局どうなったんだ?」
彼の機嫌が治った。まるで暗黒で一筋の光を見つけたように、塔子はホッとする。
「あ、あれはね……」
塔子が話し始めた瞬間、車はスーッと左に寄せられて止まった。塔子の席の車窓が開いた。彼がようっ!と声を発する。歩道には、塔子の見知った彼の同僚がいた。向こうもこちらに気付き、二人は塔子を挟んで会話を始めた。
「何、どっか出掛けるの?」
彼の友人は塔子に軽く会釈し、彼に尋ねた。
「まぁな。それより、昨日のあの件、結局どうなった?」
「あぁ。あれか。まいったよ。上司と先方の意見が食い違っててさ。こっちはとばっちりだよ。つまり先方が言うには……」
彼の友人は、彼に事情がわかるように、詳しく説明を始めた。彼は初めこそうん、うん、と話を聞いていたが、途中で興味を失ったのか、飽きてしまったのか、返事もそこそこにキョロキョロと辺りを見渡し始めた。傍らで見ている塔子はそんな彼の態度にハラハラした。彼の友人が気を悪くしないように、必死に作り笑いを浮かべるのがやっとだった。やがて彼は友人の話をふーん、そっか。わかった、わかった、で遮り、じゃ、またな、と言って車を発進させた。塔子はびっくりして、慌てて彼の友人に頭を下げた。彼の友人はどんどん小さくなっていった。

「長いんだよ」
彼がボソッと呟いた。
「えっ?」
「話が、長いんだよ。オレがふーん、とかへー、とか態度で表わしてるのに、アイツ、全然気付きもしないで喋ってたよな」
「……」
「別に、そこまで詳しく聞きたくないって。話が長いんだよ」
彼は爽快に車を走らせながら、心底彼の友人を馬鹿にしたように笑った。
「普通、気付くだろ。あんな態度取られたら。それに気付きもしないで、だらだら喋りやがって。鈍いんだよ。察せよ」
車内には爽やかな風が通り過ぎる。街路樹が後ろへ、後ろへと流れて行く。塔子はじっと黙って、彼の軽口を聞いていた。しかし、心中は彼に対して疑問がいっぱいだった。

なぜ、答えを知りたくもない質問を、この人はするのだろう?
答えを知りたくなければ、そもそも初めから質問などしなければよいだけなのに。
相手は突然喋り出したわけではなくて、この人が尋ねたから、親切に答えていただけなのに。
人は皆、彼が途中で話に飽きてしまったら、それを察して止めなければいけないのだろうか?
察しない人、彼の顔色を窺わない人が鈍感で、罪で、失礼な態度を取る彼の方が正しいのか? そんな、馬鹿な。

でも、と塔子は思う。今、あなたは間違った事をしたのですよ、と言う勇気は、塔子にはなかった。せっかく彼の機嫌が直ったのだ。また自分から険悪な雰囲気に引き戻すのは、どうしても気が進まなかった。そうして、いつものように、胸に疑問を抱いたまま、塔子は黙ってじっと車のシートにもたれていた。

「ところで、さっきのあの話の続き、どうなった?」
彼が塔子に質問をする。きっと、この話も、最後まで彼の集中力は持たないのだろう。露骨に態度に出すのだろう。塔子は溜め息を付いて、話始める。



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いつも最後まで読んで下さって、ありがとうございます

しろ☆うさです

今回は、久し振り?に「一話読み切り」を書いてみました。

このブログを始めた事には、ほぼ全部「一話読み切り」だったんですよ。

今では続きものの方が多くなっていますが……

今回のこの短編、塔子ちゃんがまだ彼と結婚する前のおはなしです。

いかがでしたでしょうか? いつものごとく、後味スッキリとは言い難い内容ですが……(笑)。

スッキリどころか、イラッと来る方が多いでしょうね。彼にも、塔子にも(笑)。

イラッとさせてすみません。でも毎度毎度の事ですが、この小説、だいたい全てがこんな内容なのですよ(笑)。

ラストでは塔子が立ち上がるのか!? そういったところも乞うご期待!?

このまま塔子がぐだぐだのまま「ひとしずく、完結。」じゃ、救われないよな……(笑)。

それはないので、どうかご安心を!!

いつも訪問して下さる方、そしてランキングや拍手などを押して下さる方、心より感謝しております

塔子ちゃんの弟のように「他人からの承認を必要としない」ストイックな性格ではないので(笑)、とっても励みになっています

あ、この内容↑わかります? かなり前の作品ですが、「根なし草」シリーズに書いてあります。結構、力を込めて書いています(笑)。よかったら、「根なし草」、読んでみて下さいね。カテゴリーの欄から飛べるようになっています

しろ☆うさでした~~(*^^)v



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