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vol.56 母の入院生活 8

今度の病院はこじんまりとした、リハビリを専門とする個人病院だった。まだ開院して3、4年しか経っていないので、建物も院内も真新しかった。パティオには陽が燦々と降り注ぎ、新緑が目に眩しかった。

看護師やスタッフに病室へと案内された。そこは前と同じ四人部屋だが、室内は少し狭いように感じた。部屋に入ってすぐのベッドが、今日から母の居場所だ。母は不安そうな表情を浮かべて、塔子や病院のスタッフのされるがままに、その空きベッドへと移動した。持ち込んだ私物を整理するように促され、塔子は先程まとめたばかりの荷物を、再び鞄から出した。
「これは田中さんの専用ですから。私物は全てここに収めて下さい」
前の総合病院とは比べ物にならないほどの、立派な木製のチェストが備え付けられてあった。
「わかりました」
「この荷物は何なの?」
大きな紙袋を指差し、中年の看護師が訝しげな顔をした。
「あ、これはオムツとパッドです。袋を開封されてしまったみたいなので、これに入れて持って来ました」
「でもここではオムツの持ち込みは出来ないのよ。こちらで用意した物を使ってもらう事になっているからね。入院代と一緒に請求するシステムになっているのよ」
だからこれは全部持って帰ってね、と看護師は言った。そうか。迂闊だった。母は若い時から何度も何度も入退院を繰り返して来たが、オムツが必要な状態になったのは今回が初めての事だった。その病院によってオムツに関するシステムが違う、という事など、塔子は考えてもみなかったのだ。オムツやパッドは、紙袋に二袋もある。帰りはタクシーではなく自転車を前の病院まで歩いて取りに行って、そこから乗って帰るつもりだ。毎回運ぶのに苦労したのに、今度は家に持って帰らなければならないのか。塔子はそっと溜め息をついた。なんと自分は無駄な事をしてしまったのか。

「11時から主治医とリハビリのスタッフと担当の看護師の合同の会議がありますので。それまでに片付けお願いしますね」
「わかりました」
「お疲れのところ申し訳ないけれど、田中さんにも出てもらうからね」
看護師は母の枕元で、そう言った。母はうん、うん、と神妙な顔をして何度か頷いた。
一通り片付けを終えると、スタッフが二人来て、母を車椅子に移動させた。そして案内されるままに、詰所の横にある小さな会議室へと通された。
椅子の何脚かを折りたたみ、車椅子の場所を確保すると、母は塔子の隣りに落ち着いた。転院直後という事もあり、すでに母は疲れ切っているようだった。車椅子の中でSの字になって、ぐったりとしていた。

やがて50代くらいの主治医が看護師やスタッフを連れて入って来た。塔子は立ち上がって挨拶をした。予め渡しておいた病状が書かれた書類に目を通しながら、大柄なその男性の主治医は椅子にドカッと腰を下ろした。
「脳梗塞ですね」
「そうです」
「で、急性期を抜けて症状が落ち着いたので、これからリハビリという段階ですね」
「はい」
「今から治療やリハビリに当たっての説明をしますので、説明が終わったら、署名捺印、お願いしますね」
「はい……」
塔子の前に、入院の説明書と、サインが必要な書類が束になってドサッと置かれた。これを、全部こなすのか。塔子はチラッと母の様子を伺った。母は焦点の定まらない目で、ぼんやりと車椅子の中で空を見つけている。

しばらく説明やサインが続いた後、主治医はいきなり母の手元に書類を一枚差しだした。
「田中さん。これからリハビリ、頑張りましょうね。これ、ご自分でサイン、書けるかな? 書いてみようか?」
「あの、母はちょっと耳が遠くなってしまったようで……。話の内容も、理解出来る日とそうでない日がありまして……」
塔子が慌ててそう言うと、主治医は塔子に頷きながら、ボールペンを母に渡した。聞こえていたのか聞こえていなかったのかはわからないが、母はそれを当たり前のように受け取り、動く方の手で署名をした。字と字の間隔が狭まって重なっていたり、逆に遠く空き過ぎていたりと、バラバラな上に極端にそれらは右肩下がりに書かれた。四角に区切られた署名欄から、大きくずれていた。しかし、そこには確かに母の筆跡の面影があった。

「書けるじゃない! これからリハビリ、頑張りましょう」
おそらく母と同世代であろう、その主治医は大きな声で母を褒めた。母が少し微笑んだ。


※このおはなしは、「母の入院生活1~7」の続きとなっております。

「母の入院生活」シリーズ



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いつも最後までお読み下さり、ありがとうございます

しろ☆うさです

今回は、いつもの?「母の入院生活」シリーズの続きです。

もう、なんだかんだで8作目となりました☆

シリーズ物で、こんなに長く続いたのって、これが初めてです。

でも、まだまだ続きますよー。おそらく。まだまだ(笑)。

文才がないから(笑)。まとまりきれないから(笑)。無駄に長く続くと思う……

サクッとカッコイイおはなしが書けたら、書き手も読み手もスカッとするのでしょうが……う~~ん。実際「小説」というカテゴリーで始めた事ですが、「書く」ありきではないのですよ。「内容」ありきで。

やってる事、矛盾してますよね

しかしながら、やり始めたからには最後までやり通したいな~~という密かな願望?もあり……。

これからも地味に頑張っていこう……と思っている次第です

いつも訪問して下さる優しい皆様、そしてランキングや拍手などを押して下さる方、深く感謝をしておりますm(__)m

これからも、「ひとしずく」、よろしくお願いします

しろ☆うさでした~~(^O^)/



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