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vol.50 母の入院生活5

インターネットで検索して、塔子はなんとか介護タクシーを探しだした。近場で、良心的なところとなると、数は限られてくる。どうにか条件に当てはまるところを見つけると、塔子はそこに予約の電話を入れた。日にちと時間を伝えると、あいにくその時間帯は先客で埋まっていると断られた。しかし、知り合いの介護タクシー会社がその日空いているので、代わりに出向く事が出来るがいかがですか? と尋ねて来た。介護タクシーについて何の知識も持たない塔子は、それで構わない、と応えた。一瞬、躊躇はあったが、もう日にちは迫っているのだ。贅沢は言っていられない。塔子は母の状態を告げ、移動用の車椅子一台を付けた価格を教えてもらい、代わりに来るタクシー会社の社名と連絡先を聞いて、電話を切った。

訊き出した社名を、念の為、検索してみる。来られる担当のドライバーの顔と履歴を確認し、価格表も細かくチェックした。大丈夫そうだ。
通常、タクシー会社は他所のタクシー会社を斡旋したりはしない。介護用のタクシー業界では、地域によって異なるのかもしれないが、なんらかの横の繋がりがあるらしい事を、塔子は初めて知った。

それから二、三日が過ぎ、いよいよ明日が転院という時に、病院から電話が掛かってきた。母を担当している、若い看護師からだった。
「ちゃんと、タクシーの手配、済みました?」
「はい。○○という介護タクシーを予約しましたが」
「車椅子も?」
「ちゃんと手配済みです」
「それって、もちろん、倒せるよね?」
「……は?」
「だーかーらぁ、リクライニング出来る車椅子かって訊いてるのよ。田中さんの場合、普通の車椅子で運ぶのは無理よ。ベッドみたいに倒せるタイプじゃないと」
「いえ。普通の車椅子を手配してますが。そういうの、何も聞いてなかったので。でも、近距離の移動だから何も問題はないかと……」
「今すぐ、リクライニングが出来る車椅子に変更して下さぁーい!」
しばらく、塔子と看護師の間で押し問答が続いたが、やがて塔子が折れる形で話は終わった。苛立ちがピークに達した塔子は、わかりました! と大声で言い放ち、叩きつけるように受話器を置いた。

転院は明日なのに。もう、準備は整っていたのに。塔子は叫び出したい気持ちをぐっと抑え、再び受話器に手を伸ばした。予約してあったタクシー会社に電話をし、押さえていた普通の車椅子を、リクライニング式の車椅子に変更してほしい、と頼んだ。
「えっ!? リクライニング式がいるの!? そんなの使う人、滅多にいないよ! しかも、あんな近距離移動で?」
「……私も必要ないと思うんですが、どうしてもと病院側から今連絡がありまして……急な変更で申し訳ないです」
「いや、それはいいけどね。滅多に使わないから空いてるし。でも、わかってる? 価格が倍くらい変わってくるよ」
電話の向こうで、おじさんが気の毒そうな声を出した。塔子は唇を噛み締めた。
「……母の状態を見て、病院側がそう判断をしたのだから、それはもう仕方ないと思って、割り切ります」
本音ではなかった。全く割り切ってなどいなかった。しかし、転院を明日に控えた身で、今更いったいどうしろと言うのか。なぜ、もっと早くに教えてくれなかったのだろう。なぜ、こんなギリギリの段になって、こんな大切な話を持ち出すのだろう。塔子は礼を言って電話を切った。

翌日、朝から娘の沙耶はご機嫌斜めだった。小学校に入学したばかりの一年生の沙耶は、放課後教室に行くのが憂鬱で仕方がないのだ。おはよう、という塔子の言葉も聞こえないふりをし、私は行きたくないところにお母さんの都合で行かされるのよ! という雰囲気を全身に漂わせていた。
息子の海斗に至っては、朝からすでにグズグズと涙を零していた。今から泣いていたのでは、お迎えの時間まで体力が持たないのではないか、と塔子は思った。

子育てと介護。巡って来る時代が異なるものが、同時期にやって来た。それが、こんなに辛い事とは、知らなかった。
「さ、朝ごはん、食べようね」
震える胸の内を悟らせないように、塔子は明るく子供達に声を掛けた。


※このおはなしは、「母の入院生活 4」の続きとなっております。

「母の入院生活」シリーズ



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いつも最後まで読んで下さり、ありがとうございます

しろ☆うさです

今回で、(ようやく?)50作目となりました!

……スローペースですね(笑)。

これからも、こんなノロノロ運転ですが、なんとか続けていこうと思っています(笑)!

いや~~しかし春はやる事がいっぱいで忙しいですね しろ☆うさはあまりの忙しさにリンパがパンパンに腫れております!

エラ張り顔になってしまってショックです(笑)。この忙しさを脱却したら元の輪郭に戻るかな。

戻らんかったら困るのよー

さてさて、今回のおはなし……「母の入院生活」の続きとなっておりますが……気付けば5! もう5! まで来てたんですね。

いつもちょっぴりシリアス~な内容ばかり取り扱っておりますが、このシリーズは中でもかなり濃いシリアス?なおはなしではないか、と。

こんな暗い内容、毎回読まされて、嫌ですよね(笑)。でもまだまだ続きますよ~(笑)。おはなしも、シリアスさも(笑)。

あ、でも書いてる内容とは裏腹?に、しろ☆うさはシリアスからは程遠い人間です……ははは……それもどうよ

では、ここからは50回目を記念して、ちょっと真面目?なおはなし。

この「おはなし ひとしずく」は、母子問題、夫婦問題、若者介護、この三本柱で成り立っています。

ショートストーリー形式に、毎回この三本柱のいずれかを題材にして書いています。

一見、何の繋がりもないこの三本の柱が、時としてリンクしたり、被さったりしています。

おそらく、このおはなしの終盤では、三本が複雑に絡み合う事になると思います。そして見解なり、なんらかの答えのようなものが提示される……かも、しれません。

いつも訪問して下さる方、そして拍手やランキングを押して下さっている方、感謝しています。ありがとうございます

地味なブログですが、これからもまだまだ続けていきたいなと思っています! 

しろ☆うさでした~~(@^^)/~~~



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