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vol.5 再婚

この感情はなんなのだろう、と塔子は訝しんだ。
別に、母に恋人が出来ようが、そんな事、自分にはなんら関係がない。
母と自分の絆がこれで壊れてしまうわけでもないのだし、母は独身だ。恋人が出来たって、なんの不都合もない。

しかし、頭ではそう理解していても、塔子は裏切られた気持ちでいっぱいになった。
三人で頑張ろう、と言った、あの言葉は嘘だったの? 
あなたが頑張ろうと言ったから、私は本当に頑張って、三人分の生活費を稼いでいたのに?
弟の学費まで、支払いをしていたのに?

裏切られた感情よりも、なぜか喪失感の方が勝った。
きっと、生まれた時から無意識に育まれていたのであろう、より所が、一瞬にして崩壊したような気分だった。
だが、塔子はその感情をひた隠した。まるで自分が幼い子供のような気がして恥じたし、口に出したところで現状はなにも変わらないであろうと思ったからだ。

それに、母には幸せになる権利がある。
それを、自分の我儘で壊してしまうのが、怖かった。

母が塔子に恋人がいる、と打ち明けたのは、それから数日後の事だった。
やっぱりな、と塔子は納得したが、もう傷つく事はなかった。
弟が、実際、どう感じていたのかは、わからないが、彼はふ~ん、そう、とだけ呟いた。

付き合いに反対されずにホッとしたのか、母は始終、恋人の家に行くようになった。
週末は、いつも恋人の家に泊まり、だんだん家に寄り付かなくなった。
あまりに自然に、それらはゆっくりと進行したので、不自然さは感じなかった。
元々、母は月の半分は父の赴任先に行っていたので、家に母がいない事には慣れてしまっていたからだ。
子供達に受け入れられた、と思ったのか、母は家にいる時は当たり前のように恋人について語り、喧嘩をすれば十代の娘のように嘆き悲しみ、仲直りをすればいそいそと恋人の家へと向かった。
それが異常だとは、塔子は思わなかった。悲しみや寂しさはあれど、そういうものだと諦めに似た感情で、母に接していた。

そうした日々が一年ほど続いた後、母はいきなり再婚話を持ち出した。
母の行動に慣れてしまっていたとはいえ、この不意打ちに、塔子はひどく驚いた。
「あのね、私、あの人と結婚する事にしたから。もう決めたから」
「……決めたんだ。私やカズヤに反対されるとは思わないの?」
「出来ないと思うよ。あなた達に、反対なんて」
母は自信たっぷりに答えた。
「だって、子供がいるから再婚は諦めたって言われた方が、あなた、後々苦しむと思うもの」
母はどうだ、と言わんばかりに塔子の顔を凝視した。




しろ☆うさです。
最後まで読んで下さって、ありがとうございます



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