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vol.47 引っ越し 5

タンスや洗濯機や冷蔵庫、そして衣類や食器、おもちゃなどを詰めた段ボールを運び終えると、引っ越し業者達は帰っていった。塔子はホッと一息つく間もなく、段ボールを開けにかかった。舅と姑に子供達を預かってもらっているのだ。出来る限り早く片付けて、お迎えに行かねばならない。

まずはザッと掃除をしてしまおう。それが済んだら、鍋や食器などキッチン用品を詰めている段ボールから開封する事にする。梱包するのに一番手間がかかったのが、これだ。まずはこの時間の取られる嫌な作業から進めていけば、後は楽に片付けられるだろう。はたきと雑巾を取り出し、上の奥の部屋から順番に掃除していく。まだ物を出していないので、掃除はスムーズに進んでいった。まだカーテンも取りつけていないので、窓掃除もやりやすい。最後に掃除機をかけると、塔子はたくさん積まれている段ボールの中からキッチン用品と書かれた物だけをひとまとめにし、それらのガムテープをバリバリと剥がしていった。チラシや新聞紙などで包んだ食器を、一つ一つ流しに置いていく。それらをまとめて洗い、水切りの中に並べる。他の用事をしている間に、それらは自然乾燥させる。乾いた頃に、収納すればよいだろう。透明のビニール袋に入れて来た鍋やフライパンは、袋から出してそのまま片付ける。客用など普段あまり使わない食器は、急ぎではないので取り敢えず段ボールに詰めたまま置いておく。これらはその後時間を見つけてゆっくり片付けていけばよいだろう。

次に、玄関へ向かい、靴を入れた段ボールを開けた。先程水拭きした靴箱がもう乾いていたので、それらを一つずつ取り出して並べていく。子供達が靴を履きやすいように、玄関に近い方の靴箱の下段を子供用にする。真新しいピカピカの靴箱に小さくて可愛い靴やサンダルや長靴などを並べていると、塔子の気分も徐々に晴れてきた。前の狭いマンションでは備え付けの靴箱がとても小さくていっぱいいっぱいだったのが、ここでは余裕を持って置く事が出来る。素晴らしい。塔子は思わず一人でにっこりと微笑んだ。全部片付けてしまうと、今度は大人二人分の靴の整理に取り掛かる。ガムテープを剥がし始めた時に、ドアが急に開いた。

「あ~。疲れた」
靴を無造作に脱ぎ捨てながら、彼が入って来た。
「あ、おかえり」
「引っ越し屋は?」
「えっ? もう帰ったけど」
彼はふ~ん、と言いながら、うろうろと廊下を行ったり来たりし、各部屋のドアを開けたり閉めたりした。言いたい事は山程あったが、塔子は黙々と彼と自分の靴を段ボールから取り出した。ようやく上がって来た自分の気持ちが、またゆっくりと下降していくのを密かに感じていた。
「おいっ! ちょっとこっちに来てみろっ!」
不意に奥の部屋から彼の大声が響いた。塔子は作業の手を休め、彼の声のする部屋へと入った。彼は左手を腰にあて、右手である一点を指差していた。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないよ。なんだよ、この傷! 床に傷が付いているじゃないか!」
彼が指差す場所を見ると、確かに小さな傷が付いていた。ちょうど彼のタンスが置いてあるすぐ前だった。
「……あぁ。ほんとだね。傷みたいに見えるね」
「見えるね、じゃないだろ! お前、業者が運び込むところ、ちゃんと見てたのか!? これは絶対向こうのミスだぞ!」
「そりゃ見てたけど。リビングも上の部屋もどんどん運んで設置してたから、同時に全部は見てないよ」
「はぁ~~。お前に任せると、いつもこうだな。はぁ~~」
彼はその場にしゃがみ込み、いつまでもいつまでも愚痴をこぼし続けた。フローリングの傷を触りながら、何度も何度も溜め息をついた。彼がしつこく傷の事を責め立てるたびに、塔子の心は震えた。自責の念が、胸の中いっぱいに広がるのを感じた。
「今度からはちゃんと確認する事。わかったな」
「……うん」
「じゃ、オレは疲れたから寝る事にするよ」
彼はそう言うとリビングに向かい、設置したばかりのソファの上にどかっと身体を横たえた。塔子が茫然と見つめている傍らで、彼は気持ち良さそうに寝息を立て始めた。

ねぇ。それって、私が悪いの? 
確かにちゃんと見ていなかった私も悪いけれど、あなたにも落ち度はあるんじゃないの?
なにも今日、よりによって引っ越し当日の今日、わざわざ出掛けなくてもよかったんじゃないの?
子供達を見てくれているあなたの両親に迷惑をかけたくないから、私はとても焦って片付けているんだよ。でも、それはあなたには伝わらないんだね。
何を疲れる事があるの? ねぇ、私は疲れてないとでも言うの? 

踵を返し、塔子はリビングを出た。そして玄関へ向かい、作業の続きに取り掛かった。
言わずに飲み込んだ言葉も、言わなければいけないのに飲み込んだ言葉も、全ては心の内に収めたままだった。きっと、結婚当初は小石くらいの小さな重みだったのだ。それは年月と共にやがて重なり、積み重なり、いつしか隙間もないくらいの巨大な岩となり、塔子を押し潰そうとしていた。


※このおはなしは、「引っ越し1,2,3,4」の続きとなっております。

引っ越し 1

引っ越し 2

引っ越し 3

引っ越し 4



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しろ☆うさです

いつも最後まで読んで下さって、ありがとうございます

今回のおはなしで、「引っ越し」シリーズ、無事?完結いたしました!

……ね? 後味悪い終わり方ですよって前に言ってたでしょ……やっぱそうだったでしょ……(笑)。

いやね、この終わり方についてというか、そもそもこの話の内容については言いたい事、山ほどありますよ。塔子ちゃんじゃないけど(笑)

でもここで自論?出してしまったら、これから先が続かないと申しますか……うん。結局小説というカテゴリーの中では自論を展開する事は無理というか……。うん。

腹立たしいなー!と思っても、その対象は読み手によって違うでしょうし。

だから、今回も提示だけでその後の結果はありません。

こういうスタンスが、きっと最終項までずっと続くと思います(笑)。

まぁ、なんしか塔子ちゃんが幸せになったらいいなぁ……とは思っているのですがね。

いつも読んで下さる皆様、そして拍手やランキングを押して下さっている方、本当にありがとうございますm(__)m

先日、ブログ村にも登録しました(笑)。FC2ランキング、ブログ村、拍手、三つ全て押せなんて厚かましい事は申しません(笑)。

気が向いた時、どれか一つポチっと。くらいの優しさで充分でございます(笑)。

しろ☆うさでした~~(*^^)v



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