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vol.42 母の入院生活 2

一命を取り留めた母は、その後一般病棟へと移された。やはり医師が判断した通り、母の半身不随は治る見込みがなかった。リハビリをすれば容態が悪くなるのを防ぐ事は出来るようだが、回復に向かう事はもうないだろうとされた。50代にして、一生、寝たきりなのだ。

塔子は医師やケアマネージャーから、そろそろ次の行き先を探さねばならないと告げられた。彼らの態度から、ずっとそこで入院する事は不可能なのだと知った。塔子の自宅に引き取る事も考えたが、どう考えても無理だった。二人の幼い子供の子育て。非協力的な伴侶。そして仕事。オムツ交換から床ずれ防止のためにまめに体位交換までしなくてはならない。ろれつはまわっていないが声は出せるし、頭はしっかりしているので、塔子に対して文句や苦情も多い。病院側は、リハビリ専門の病院へ転院する事を勧めてきた。他に行く当てもない塔子は、その提案を受ける事にした。

塔子が通えるよう、自宅からそう遠くはないリハビリ専門病院を何件かピックアップしてもらう。塔子はその中から最も近い病院を選んだ。設備云々より、何より自分が通える範囲かどうかが重要だった。子供がいなければ、いや、子供がもう少し大きくて留守番が出来る歳であったならば、そこまで近場に拘る事はなかったのだが、実際問題まだ幼稚園児を抱えている身では、ほとんど身動きが取れない。園児は親に送り迎えをしてもらわなければ、一人で登降園すら出来ないのだ。

数日後、リハビリ専門病院から医師と看護師がやって来た。塔子も立ち合いをするように指示された。やって来た医師と看護師は、細かく母の状態のチェックをした。そして簡単な質問を塔子や母本人に投げかけた。彼らは布団を剥がし、ミトンを付けた手を持ったり、足を浮かしてみたりした。医師が何事かを囁くと、看護師はそれを書き込んでいった。全てが終わり、彼らは帰って行った。その後何日かして、そのリハビリ病院から連絡が入り、母はそこに転院出来る事になった。

母の入院は、今まで何度もあったので経験済みだったが、転院は今回が初めての事である。転院の日程が決まり、塔子は次の病院から連絡を受け、そちらに行って話も聞かなくてはならなかった。母が現在入院している病院へ通う。そして、次の転移先の病院へ向かう。それら所用は子供をお迎えに行く時間までに、全て終えなければならない。忙しい日々が続いた。

いや、実際塔子が感じていたのは、忙しさではなかった。それは渦中にあっては、むしろあまり考えない。それは過ぎ去り、もうその状態にあらず、記憶を思い起こした時に表現出来るものだろう。そう。塔子は忙しさなど、全く感じていなかったのだ。諦めと、申し訳なさ。塔子を支配していたのは、ただその二つの感情だった。自分しかやるべき人がいないからという諦め。そういう病弱な母だったからという諦め。自分の人生への諦め。そして、子供達に対していつも少しの申し訳なさがある。自分がしっかりしていたら、もっとよい道があったのかもしれない。こんな親でごめんねという申し訳なさ。確かにそういう感情はいつもあった。それらは塔子の心を鷲掴みにするほどの強さはなかったが、ただいつも漠然とした形で、そこにいた。

諦めは人を萎えさせ、申し訳なさは自信の喪失に繋がる。めまぐるしく変わって行く環境の中で、塔子は萎えて、自信を喪失していただけにすぎなかった。楽しく生きる事は、許されないのだ。楽に生きる事は、許されないのだ。たとえ、それらを手にしても、それは一瞬のまやかしでしかないのだ。塔子は自分を戒めた。忙しさを隠れ蓑に、心に厳重な鍵をかけ、簡単には直視出来ないように蓋をした。

さあ、今日も病院関係の用事は全部片付けた。これから海斗をお迎えに行かなければ。今日はこれから沙耶が友達をたくさん連れて帰って来る。子供達のお菓子の用意もしておかなければ。ざっと掃除もしておかなければ。子供達が帰ると、沙耶に宿題をさせながら、今度は夕飯の支度をしなければ。彼が帰って来る。彼が帰って来る。仕事が入るようになった彼は、今日一日あった愉快な事、不愉快な事を、塔子に逐一報告してくる。頷かなければ。聞いているフリをしなければ。けれど自分は今日あった事を、決して何も話さないだろう。昨日もその前もそうだった。きっと明日も明後日もそうだろう。

急がなければ。幼稚園に遅れる。沙耶が友達を連れて帰って来る。彼が帰って来る。


このおはなしはvol.38 母の入院生活 1の続きとなっております。

母の入院生活1



↑いつもありがとうございます

しろ☆うさです

いつも最後まで読んでいただいて、ありがとうございます

今回のおはなしは、vol.38 母の入院生活 1の続きとなっています。

いつものように?暗ーいおはなしです(笑)。

実はこのおはなし、これからもっともっと過酷な状況になるんですよね~ハハハ~……

いつか、読んでよかったな~って思っていただけるような、読後感スッキリなおはなしを書くのが目標です。キッパリ(笑)

でも、塔子みたいな人、世の中にはいるかもよ~~的な意味合いを込めて、今はまだこのままで……書かせていただこうと思っています。

最終的にスッキリとした内容になるかどうか、まだわかりませんが(笑)。

いつか塔子ちゃんが幸せになればいいなーとは思っているのですがね。

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