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vol.41 建前はいつも本音の表側に立つ

一番古い記憶を辿れば、そこには父がいて、母がいて、弟がいる。そして、父方の祖母がいる。5人は共に暮らしている。塔子は幼稚園に通っていた。幼稚園を卒園する頃、父と母と塔子と弟は、祖母の家を出て、4人で暮らし始めた。緑豊かな郊外へと引っ越しをしたのだ。祖母はそのまま自宅に残った。

6歳になったばかりの塔子にとって、それらは目新しい、興味深い事として映った。新しい環境。新しい家。新しい友達。家は狭くなってしまったが、そんな事は子供の塔子にとってはどうでもよい事だった。ちょうど小学校へ入学する時期でもあり、意識の全ては真新しい生活へと向けられていた。町は自然豊かで、空気も美味しい。教科書をたくさん詰めて背負う初めてのランドセルはとても重く感じたが、まるで自分が大きなお姉さんになったような、気恥ずかしさの混じった喜びがあった。初めての家。初めての学校。初めての町。幼かった塔子は、そうやって新しいスタートを切ったのだ。

ちょうどその町へ越して来る半年ほど前に、塔子は長期入院をしていた。幼稚園の友達は千羽鶴を折って、担任の先生が代表で病室に届けてくれた。一時は無理かもしれないと言われたのが嘘のように、塔子はみるみる回復して退院に至った。そんな経歴から、母は塔子を連れて、一家総出で都会から自然溢れる田舎へと土地を変えたのだった。都会の空気は塔子の体に合わないから、田舎へ引っ越す。少なくとも、当時の塔子はそう聞かされていた。本当に何カ月も入院していた塔子は、それが真実だとすっかり信じていた。

子供は成長するにつれ、物事の裏の面を知っていく。建前はいつも本音の表側に立つ。そうなった結果の前には、無数の理由が複雑に絡み合い、存在する。確かに、塔子の入院は、数あるきっかけの一つではあったのだろう。しかし、それが全てではない。全てでは、なかったのだろう。思春期に差し掛かった頃、塔子はそれに気付いた。絶対的に信頼し、服従していた父も母も、ただの脆い愚かな人間なのだという事に初めて思い当ったのだ。

母はお嬢さん育ちで、今まで苦労をした事のない人だった。父は5人も女の子が連続して生まれた後にやっと誕生した、待望の長男だった。もっと他にいい人がいるから、という親の反対を押し切って、母は父と結婚した。結婚後、すぐに舅が死んでしまい、姑と同居となった。5人の義理の姉達は、代わる代わる様子を見に、実家を訪れた。年の離れた義姉達は、最良の親切心から、一人になってしまった我が親を気遣い、料理や掃除や子育てに至るまで、毎日毎日義理の妹に口を出した。それは、些細な、小さな嫌味みたいなものだったのだろう。しかしそれが日常的に連続すれば、やがては大きな心の負担となる。実家に帰りたいけれど、帰れない。結婚した時、二度とうちには戻るなと、固く約束させられていたからだ。逃げ場のないストレスで塞ぎ込む嫁に、姑は容赦なく叱責するようになる。料理を一口も食べずに残す。掃除が終わった後に、同じ場所を掃除する。病気になったら怒られ、横になる事は許されない。やがて母は、この心労に、終わりがない事に気付く。姑がこの世から去るまで、これは延々と続くのだ。

人は誰も終期を知らない。ならば、自らが動くしかないのだ。おそらく、母はそう思い、実際に行動に移したのだろう。塔子達は4人で、その地へ移り住んだ。母は結婚後初めて自由を味わった事だろう。

しかし、母が本当に不幸になった原因は、姑や義姉達の仕打ちではなかったのだ。それらは一見、わかりやすい材料として、母の目の前に並べてられていただけにすぎない。母は、その事にいつ頃気付いたであろうか。きっと何年も何年も、それは見過ごされていたに違いない。自分を騙し、自分の我慢が足りない事を反省していたのかもしれない。もしかしたら、離婚の直前まで、いや、離婚した後でも、気付いていなかったのかもしれない。

それが全ての要因とは言えない。
しかし、母はその核となる部分と共に、家を出たのだ。
置き去るべき相手を、根本的に間違えていたのだ。



↑いつもありがとうございます

いつも最後までお読み下さり、ありがとうございます

しろ☆うさです

今回も、すっきりしないおはなしですみません(笑)

……いつもの事か(笑)。

今回は(も?)、続きものを書く予定だったのですが、ちょっと休憩?の意味合いを込めて、短編を書いてみました

そう、放りっぱなしのおはなしがたくさんあるんですよ。

「引っ越し」シリーズとか、「根なし草」とか、「母の思い出」とか「母の入院生活」とかとかとか……(笑)。

でも続きもの系ばかりもね。飽きますもんね。だもんで、ちょっと目線を変えてみました

いつも訪問して下さる方、拍手&ブログランキングを押して下さっている方、心から感謝しています

おはなし「ひとしずく」、まだまだ続きます。これからもどうぞよろしくお願いいたしますm(__)m

まだまだ寒い日が続きますね。どうぞお体ご自愛下さいませ~~(^O^)/



↑ありがとうございます
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