FC2ブログ
<< vol.41 建前はいつも本音の表側に立つ :: main :: vol.39 根なし草 3 >>

vol.40 引っ越し 4

引っ越し当日、塔子は朝早くから起き出し、最後の梱包をした。そして子供達を彼の実家へと連れて行った。小さな子供達がいては、そのお世話だけで、引っ越しも易々とは出来まい。長女の沙耶は5歳の誕生日を迎えた年中さん、息子の海斗はまだ園にも入園していない2歳児だ。ちょうど引っ越しが夏休みと重なったので、園への送迎も気にせずに、彼の実家へ預ける事が出来た。

気の早い秋の訪れを感じさせる、涼やかな風が吹く日だった。光の雫が燦々と降り注ぎ、塔子の新しい門出を祝うかのようだった。そう。今日からが、本当のスタートなのだ。意に沿わない結婚式も、惨めだった結婚生活も、これで永久におさらばなのだ。塔子は喜び勇んで手配した引っ越しセンターのトラックに乗り込もうとした。その時、塔子の腕を彼が不意に掴んだ。
「オレ、行かないから。今からゴミの後処理をする」
「えっ?」
「だから、使わない玩具とか、捨てる物、いっぱいあるだろ? それをゴミ処理センターに持って行くの。これから」
「……なにも、今しなくても、明日でも明後日でも、日にちはいつでもいいじゃない? ここの家賃は月末まで払ってるんだし、全部用事が終わってからゆっくり処理すればいいじゃない?」
「いや。今から行く。後はよろしく」
トラックのドアが閉められた。引っ越し業者と塔子を乗せたトラックは、やがて彼を残したまま走り出した。

意味がわからない。流れ去る景色を眺めながら、塔子は困惑した。なにも生ゴミを放置して来たわけではない上、月末までにはまだ数日残っている。物事の優先順位がわからないのであろうか? 子供達を引き取りに行くまでになんとか形を整えたいのに、彼はスッと消えてしまった。業者が数名来ているとはいえ、塔子一人で家族四人分の荷物をどこまで整理出来るのか。塔子は途方に暮れながら、見慣れた景色が過ぎ去って行くのを茫然と眺めた。

別に、いいのだ。荷物の整理くらい、どうって事ない。取り敢えず今夜使う物だけを出しておけば、なんとでもなる。
塔子は、自分の身に降りかかった荷が重かったわけではなかった。むしろ、これまでの苦労に比べたら、笑ってしまうくらいの些細な事柄だった。では何が、こんなに心の奥を重くさせるのだろう? 何が自分を天から地獄へと引きずり下ろしたのだろう? 何が自分の喜ばしい気持ちに水を差したのだろう? とどのつまり、彼の塔子に対する接し方なのだ。それがこんなにも自分の心を重くさせるのだ。

彼はいつも、後ろ手でドアノブを握っているように見える。そして面倒だったり嫌だったり怖かったりすると、塔子を前に突き出して、自分だけサッと部屋から出て行ってしまう。
いつもの事だ。もう、慣れっこだ。引っ越しで何かが変わるかもしれないと期待した自分が馬鹿だったのだ。

新居はマンションからそう遠くはなかった。同じ市内だが、小学校の校区が変わる程度の距離だった。沙耶はまだ幼稚園児なので、転校の心配もなかった。幼稚園からは遠く離れてしまったが、通えない距離ではない。前に海斗、後ろに沙耶を乗せて、自転車で通えばいいだけの話だ。
次々とタンスやテレビや冷蔵庫などの大型家具が塔子の指示で設置されていった。箱詰めにした荷物は、一階奥、二階右、などと段ボールにペンで先に設置場所を書いておいたので、スムーズに各部屋へと運び込まれた。やがてそれらが済むと、引っ越し業者達は帰って行った。

さあ、ここからがスタートだ。塔子は腕まくりをして、段ボールを開けにかかった。


※このおはなしは、「引っ越し」シリーズの続きとなっております↓

引っ越し1

引っ越し2

引っ越し3



↑いつもありがとうございます

しろ☆うさです

いつも最後までお読み下さり、ありがとうございます

今回のおはなしは、「引っ越し」シリーズの続きとなっております。

もう、なんだかんだで”4”まで来てしまった……☆ 「真夜中に走る自転車」シリーズみたいに手に汗握る?展開ではないだけに、結構呑気に書いていたから(←おいw)まさかこんなに続くとは思ってもみませんでしたー(笑)。

しかも、今回で完結まで持って行くつもりだったんですが……ちょっとまとめきれなかったので、まだ続きます

次回で完結する予定です……が、取り扱っている内容上(モラハラ、毒親など)、今回も読後感スッキリ!とはいかない終わり方です(苦笑)。もう、先に断っておきます(笑)。

スッキリ綺麗にオシャレに(?)終わらせたら、そもそもこのブログを立ち上げた意味すらなくなってしまうので

小説って架空の世界です。そういう枠組みの中で、どれだけ日常を、現実を、リアルに感じてもらえるか……そういう事がやりたくって書き始めたわけです。

書き手の主観を一切加えていないので、たまに物凄いジレンマに陥る事があります……(笑)。


いつも訪問下さる方、心から感謝しています

そして、拍手&ブログランキングを押して下さっている方、ありがとうございます 
いつも励まされる思いです

これからも「おはなし ひとしずく」、よろしくお願いします(^^)/~~~



↑ありがとうございます
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿












トラックバック

この記事のトラックバックURL:

 |   |