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vol.4 甘い声

それは、他人からすれば、些細な事なのかもしれない。
しかし、塔子の若い心はひどく傷ついた。音を立てて、自分のサンクチュアリが今、崩壊したのを知った。

塔子の父親は、仕事の都合で単身赴任をしていた。母はよく、父のマンションへ家事などをしに泊りがけで出かけた。
まさに、月の半分は塔子の住む家、残りの半分は赴任先、といった、半分半分の生活であった。
母がいない二週間あまり、塔子は二歳年下の弟と、二人きりだった。塔子、高校生。弟は、まだ中学生だった。

朝早くに起きる。弟と自分の朝食の用意をし、自分のお弁当を作る。その間に洗濯もし、弟を起こす。
学校の帰りには、夕食の買いだしをする。お腹をすかせた弟に喜んでもらえるようなメニューを考える。
たまには冷凍食品などの出来あいの物で簡単に済ませる事もあった。二人でファミレスやファーストフード店などに出かける日もあった。

自分の環境に、疑問を持った事は、塔子には一度もなかった。父は家事が一切出来ない人なので、母が手伝いに行くのは仕方のない事だと思っていた。そして、半月もすれば、必ず母は帰って来たのだから。

ある日、両親が離婚をすると言い出した。父の会社が倒産したのだ。
思春期だった塔子は、現状が嫌で嫌でたまらなかったが、自分の力でどうなるものでもなかった。
やがて、それは仕方のない事だ、と塔子は受け入れた。それは自分が決める話ではなく、本人同士が解決する類の話なのだ。

元々、そんなに家にいなかった父が、やがて、全く帰って来なくなった。
不在感は、そんなになかった。いない事に、みんな慣れきっていたからだ。

「これからは、三人で、頑張って暮らそうね」
母はにっこり微笑んだ。
塔子はその時真剣に、これからは私が母を支えていこう、と思った。塔子は短大を卒業し、ちょうど折しも社会人となっていたのだ。

母がおかしい、と気付いたのは、離婚から2カ月ほど過ぎた頃だ。
働きにいかないのは、まぁ、いい。今まで専業主婦だった人が、急に職を探したところで、そんなに容易く見つかるものではないからだ。自分が三人分の生活費を稼げば、それでいいのだ。
塔子が引っ掛かったのは、母の、もっと別のある行いだった。
母は、いやに電話をするようになったのだ。塔子が仕事から帰ると、だいたいいつも、電話の前にいて、誰かと話をしている。最初は、離婚をしたばかりだし、友人や知人などに報告がてら掛けて、それが長話になるのだろう、と気にもとめていなかった。

ある夜、いつもは自室に戻る塔子だが、その日はたまたまリビングにいて、テレビを観ていた。母が隣りで電話をしているので、テレビのヴォリュームは下げていた。テレビを観ながら、母の声も、自然と塔子の耳には入って来ていた。聞くとはなしに、それは、ごく自然に。
誰と、何について喋っているのか、塔子にはわからなかった。しかし、母の声のトーンが、自分と話す時の声とあまりに違う事に違和感を覚え始めた。なんというか、それは、甘ったるかった。まるで、自分と同じ年齢くらいの女が、恋人に話す時のような華やかな恥じらいや、隠しきれない喜びを、塔子はその声色の中に感じた。

瞬間、塔子は全てを悟った。



最後までお読み下さり、ありがとうございます。しろ☆うさです。
これからもよろしくお願いします

明日から三日間ほどは更新できないと思います……☆




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