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vol.39 根なし草 3

電話で予約を取り、指定された日時に塔子はその場所を訪れた。弟に事情を話すと、一緒に見学に行くと言うので、共に行く事になった。たまたまその日に予定のなかった彼もついて来た。待ち合わせ場所で弟と合流し、その後三人で彼の車に乗り込み、一路墓地へと向かった。

そこは山深い場所にあった。いくつものカーブを抜け、徐々に山奥へと入って行く。傾斜は段々急な角度へと傾き、三人の通る道の脇には、清流がさらさらと流れて行く様が見て取れた。眼下のその淀みなき流れは、木々の目隠しによって、現われたり現われなかったりした。葉の隙間から垣間見える水の動きは、留まる事なく上から下へ、右から左へと煌めきを放ちながら滑り落ちる。今日は梅雨の晴れ間だが、また雨が続くのだろう。今は澄んだこの小川も、ひとたび雨が降れば鶯色のような、土色のような、濁った色へと変貌するのだろう。

車内で、塔子は居心地の悪い気分を味わっていた。弟と彼は、たいして仲がよくない。仲がよくない事に対して、塔子は何の感情も持っていなかったが、どちらにも等分に話を振ったり、どちらかが黙り込むのを防ぐために気を配るのが煩わしかった。仮面を被るのに慣れきっていた塔子であるから、ほとんど無意識に二人の男の顔色を伺い、やはり無意識にその場を明るくしようと努めていたが、居心地の悪さは確かに心の片隅にひっそりと存在していた。

塔子が結婚した相手は、別れた父にそっくりだ、というのは弟の見解だ。外見云々の意味ではなく、性格や醸し出す雰囲気が、驚くほど似ているらしいのだ。結婚したばかりの頃弟にそう言われ、塔子はハッとした気持ちになったのを覚えている。塔子はその意見を半分は認め、半分は否定したい気持ちだった。そう。彼はどこか、別れた父に似ている。自己中心的で、他人の意見に絶対に耳を貸さない。自己愛に溢れ、他者を犠牲にしても、頑なに自分を守ろうとする。一旦外へ出ると、社会からは認められ、非常によく出来た思いやりのある人間だという評価を得ているところも、同じだった。お山の大将の地位にいる自分が好きで、自分は慈悲深く、優しさ溢れる善良な市民だと自己評価している点でも、奇妙なほど二人は似通っていた。

認めざるを得ないのだろう。父と彼は似ている。悪気が全くないところも、二人は本当によく似ている。育った環境さえ、二人はそっくりだった。両親、そして姉から溺愛され、徹底的に甘やかされて育ったのだ。長男だからと大切に育てられ、しかし末っ子であるが故に家族全員からスポイルされて育ったのだ。もちろん、そういった環境下の人全てがそうなるとは限らない。弟も同じ環境だったが、過酷な状況が弟によい刺激を与えたのか、全くそういった気質には育たなかった。持って生まれた性質もあるのだろう。弟は彼らとは異なり、どちらかといえばストイックな現実主義者だった。友達がたくさんいて、いつも陽気に振舞うが、情に流される事は決してない。独立心が強く、サポートも、ギャラリーさえも、必要とはしない。弟にとって、他人からの承認は、それほど重要な事柄ではなかったのだ。良くも悪くも弟は自己完結していた。これらの点で、弟は父や彼とは大きく異なっていた。それに対して父や彼は、自分が居心地よく存在するためには、サポートの役割を担う誰かが必要だった。そして頑張っている自分を容認してくれるギャラリーを必要不可欠とした。

閉ざされた居心地の悪い空間は、北西へと進んで行った。やがて、道が大きく開け、○○墓地の案内看板が見えてきた。
門をくぐり、閑散とした道を、車は進む。急な勾配で、車は右に傾いたり、左に傾いたりした。門から駐車場まではかなりの距離があった。やがて右に大きく曲がると、やっと駐車場が見えた。車を停め、三人は降りた。蒸し風呂のようだった街中が嘘のように、山の空気は澄んでいて清らかだった。契約する、契約しないは別として、今日は見学を兼ねて話を聞きにやって来たのだった。しかし、おそらくはここで話は決まるだろう、と塔子は思った。あれだけたくさんの情報から、自分の条件に合うところを探した結果、辿り着いたのが、ここだったのだ。生前契約も可能だという事から、塔子は契約に必要な書類や印鑑、そして前納のための現金も鞄に詰めて来ていた。

三人は事務所を探して、ゆっくりと階段を上って行った。


※このおはなしは、vol.30 根なし草 1 (11/27)、vol.33 根なし草 2 (12/12)の続きとなっております。

根なし草1

根なし草2



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いつも訪問して頂いて、ありがとうございます

しろ☆うさです

今回のおはなしは、「根なし草」の続きとなっています。

何か、「ひとしずく」以外の新しい話を書こうかな……なんて前回は言っておりましたが、またまたどっぷり「ひとしずく」の世界がやって来ました(笑)。

う~ん。考えてはいるんですがねぇ……まだ温め中というか。時期が来ないというか。

じっくり時間をかけて、考えたいと思います。考えている間に消えちゃうかもしれないけど

着手するなら、長く続けられるものを……と思うと、色んなアイデアが浮かんでも、立ち消えしてしまう案が多い……

だもんで、まだしばらくは今のままのスタンスで続けていこう……と思っております(笑)。

「今のままのスタンス」って、サラッと書きましたが、これでも毎回空っぽの頭をう~んと悩ませながら書いているんですよね(笑)。

こんな、誤字・脱字満載の駄文なのにねー(笑)!

それでもお付き合い下さる数少ない読者の皆様には、心からの感謝なのです

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これからもおはなし「ひとしずく」、どうぞよろしくお願いいたします



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