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vol.38 母の入院生活 1

脳梗塞で倒れた母は救急車で運ばれ、その後救急病棟で入院する事となった。いつ、事態が急変してもおかしくはないという状況だった。塔子はほぼ毎日のように、母を見舞った。入院中のパジャマはレンタルで済ませたが、オムツとオムツパッドの補給が必要であったからだ。

娘の沙耶は小学1年生になり、朝は自分で登校出来るようになった。が、1年生は授業数が最も少ないので、帰宅時間は早い。明るくて陽気な性格の沙耶だが、おっちょこちょいでよく忘れ物や失くし物をしてしまう。家の鍵を渡すには、まだ心配であった。そこで塔子の行動時間は、彼女の帰宅時間までと限られるようになった。

息子の海斗は幼稚園の年中さんだ。活発で勝気な姉とは対照的に、おとなしくていつもニコニコしている。何をやらせてものんびりとしていて、人の倍の時間がかかった。優しく穏やかな空気に包まれた彼を抱き締めると、その癒しのオーラが塔子にも伝わり、思わず微笑んでしまう。毎日幼稚園へお迎えに行くと、彼は両手を広げて喜びを最大限に表しながら、塔子の元へと駆け寄った。

彼らが小学校や幼稚園で過ごしている時間、塔子はオムツを持って母の元へと向かった。病院は隣町で、自転車で充分行ける距離であった。大人用のオムツを前かごに乗せ、塔子は一人、病院へと自転車をこぎ出す。それが日常となった。病院へ着くと、母はいつものようにベッドに横たわり、天井を眺めている。手には、拘束用のミトンが付けられている。その姿を初めて見た時は衝撃を覚えたが、人は日常的に何かしらを目にしていると、それが当たり前になってくるものだ。違和感のあったそのミトンも、今では何の驚きも、恐怖も、塔子に与えない。要するに、感覚がマヒしてしまったのだ。それは、諦めにも似た、慣れだった。

その日、いつものように塔子は母の病室へと向かったが、そこに母の姿はなかった。ベッドの位置が変わるのは、病院ではよくある事だ。塔子はしばらく探したが、母はどこにも見当たらなかった。塔子は諦め、詰所へと引き返した。名前を告げて調べてもらうと、母は昨夜救急病棟から一般病棟へと移されていた事がわかった。どうやら今朝連絡の電話を塔子に入れたらしいが、ちょうど塔子は幼稚園へ海斗を連れて行っていた時間だったのだろう。大きな病院なので、建てられている棟そのものが違う。塔子は礼を言い、一般病棟へとオムツを抱えたまま歩き出した。

同じ病院でも、病棟が違うと、こんなに漂う空気感が違うのかと思う。救急のキーンと張りつめた緊迫感はそこにはなく、どことなく気の抜けたような、どんよりとした空気が漂っている。すれ違う看護師達の様子も全く異なる。確かに、今日、明日までの限られた命かもしれない患者と接している者と、一般の病棟に勤めている者では、様子が異なって当然なのかもしれない。入院患者。医師。看護師。見舞いに来る人々。長年に亘ってそれら全ての人間から無意識に発せられてきたであろう空気感が、白い壁にも、長い廊下にも、各々の病室にも、慢性的に染みついているような気がした。ここで、終期を迎える者はいない。そういった安堵感がもたらす、もったりとした雰囲気に馴染めないまま、塔子は母の病室へと歩を進めた。

一般病棟へ移されたという事は、「覚悟をしておいて下さい」の状況を脱した事を意味する。

しかし、残された現実は過酷だ。母は半身不随のため、起き上がる事はおろか、座る事すら出来ない。トイレも、着替えも、入浴も、食事も、何も母一人では出来ないのだ。寝返りすら打てないため、床ずれ防止に数時間置きに看護師が向きを変えている有様だ。
これから、一体、どうなるのだろう。母はまだ50代だから、治る見込みはあるだろうか?

「おーい。来たよ~」
塔子は自分の心中を悟らせないように、努めて明るく病室へと入って行った。



↑いつもありがとうございます

しろ☆うさです

いつも最後まで読んで下さって、本当にありがとうございます

今回のおはなしは、先日完結しました「真夜中に走る自転車」シリーズの続きとなっております。

えっ!? まだ続くんかいっ!? とお思いになられた方!

そう、まだ続くのです。このおはなし……(笑)。まっだまだ続くんです(笑)。

多分、シリーズ5,6くらいは続くのではないかと……

いつも重かったり、硬かったりする内容ですが、この「母の入院生活」シリーズも、相当重いです(苦笑)

しかも、暗いです(笑)。

それでもいつも読んで下さっている方に、心から感謝です

あまりに内容が深刻過ぎるので、「ひとしずく」以外のもうちょっと柔らかいおはなしも並行して書いていこうかな……とかちょっと最近考えたりもしているのですが……どうなることやら

今でも時間が足りなくて、しかも筆が進まなくて(っていうのかな?PCでもw)、ヒーヒー言いながら書いてるのにねぇ(笑)。無謀かな。

いつも、訪問して下さる方、そして拍手やブログランキングを押して下さっている方、ありがとうございます

「また頑張って書くぞ~~」という、励みになっております

しろ☆うさでした(*^^)v



↑いつもありがとうございます
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