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vol.37 新しいスカート

結婚をしても、塔子は働き続けた。出張が多く、残業も毎日のようにあった職場を辞め、棚卸以外の日は比較的定時に帰れる職場に転職をした。給料は少しばかり減ってしまったが、これなら帰って家事をする時間が確保出来る。それに、前の部署では結婚した女性がそのまま勤めている前例がなかった。

新しい職場はこじんまりとした会社だった。東京に本社があり、塔子の勤めているところは支店だった。数か月して仕事に慣れ始めると、気の合う仲間も出来た。嫌な上司や先輩も数人いたが、そんなのはどこに行ったって同じだ。別にお友達関係ではないのだから、必要最低限の連絡や会話でやり過ごせばよいのだ。

彼は結婚と同時に独立するといって、塔子に黙って勝手に会社を辞めていた。それは彼の決断した事なのだから、塔子が文句をあれこれ言う筋合いではない。だが、塔子の心の片隅に、ある種の詐欺に引っ掛かってしまったようなしこりがひっそりと生まれたのは事実だ。結婚は、条件ではない、のであろう。しかし、十代の乙女ではないのだから、イケメンだから、結婚に憧れがあるから、だけでは踏み切れないのも確かだ。保障、とまではいかないが、自分がこの先生きて行く上で、なるべく生活に不安を覚えるような生き方はしたくない。メリット、デメリットで換算する気はさらさらない。しかし、視点を変えてみたらば、財力も数ある結婚の条件に立派に当てはまるものなのだ。取り分け、父と母の離婚後、自分が養い手となり家族を支えてきた塔子には尚の事だった。

だが、現実問題、彼は無職になってしまった。彼は彼なりの、確固たる理由があるのだろう。それは大きい野望なのかもしれない。たとえ傍から見れば宙に舞う埃くらいに気まぐれな様子であったとしても。塔子は彼の仕打ちに対して、一言の苦情も発さなかった。当たり前の話だが、発言しなかったからといって、何も感じていないわけではない。発言すると後々面倒な事になるとわかっていたから、ただ黙っていただけだ。裏切り。怒り。失望。心の中は嵐のように吹き荒れていたが、表面上ではただ穏やかに日々を過ごした。
背負い込んだ荷物が、またひとつ、増えただけの事だ。

結婚してしばらくすると、五月の爽やかな風が町を吹き抜けた。連休が終われば、直に母の日がやってくる。今年からは、自分の母だけではなく、義理の母にも何らかの贈り物を考えなくてはならない。義母に贈る、初めてのプレゼント。塔子は仕事のない日に、彼を誘って近くのデパートへと向かった。まだ結婚したばかりで義母の好みもよくわからなかったので、彼にも見立ててもらおうと思ったのだ。
「なんでオレも行かなきゃならないわけ?」
彼は不機嫌そうに不平を洩らした。
「なんだっていいじゃん。気持ちの問題なんだから」
塔子は聞こえないふりをして、品物を物色した。言ってやりたい事は山ほどあったが、全て飲み込んで引き受ける事にしていた。誰のプレゼントを買おうとしてるの? あなたの母親に贈る物でしょ? それすら、わからないの? 気持ちの問題って、お義母さんが貰って嬉しくもなんともない物を堂々と差しだすほど、私は厚かましくはないけれど? 
それらの言葉は塔子の心でぐるぐると弧を描いて回っていたが、口に上る事はなかった。

結局、母にも義母にも、日傘を贈る事に決めた。縁に美しい花の刺繍が施された繊細な作りの物で、きっとこれなら気に入ってもらえるだろうと思った。母には黒地に白模様を、義理の母には白地に黒模様を選んだ。美しい化粧箱に詰められ、ツルツルしたリボンが掛けられる。母の物と義母の物を贈り間違わないように、シールの色で区別してもらった。一仕事終えたような清々しい気持ちを味わいながら、塔子と彼はエスカレーターで下って行った。降りたところに、ちょうどレディースの洋服が立ち並んでいた。
「せっかく来たんだし、ちょっとだけ見ていっていい? 会社に着ていく、新しいスカートがちょうど一着欲しかったんだよね」
彼が頷くのを確認すると、塔子は目に付いた店舗へと足を踏み入れた。この店なら知っているし、何度か購入した事がある。価格もお手頃な上、着回しやすい。迷った末にどうにか一着選ぶと、塔子は会計を済ませた。

「お待たせ」
「いい身分だね」
「えっ?」
「こんなところでスカートが買えて、いい身分だねって言ったの。羨ましいよ」
満面の笑みを浮かべて塔子を見た後、彼は塔子をすり抜けて、早足で歩き始めた。

その後、その新しいスカートを穿く度に、その日の暴言が思い出され、塔子の気分は沈んだ。仕舞いには、そのスカートを見るのも嫌になったが、我慢して着ていた。
数年後、そのスカートが古くなった時、塔子は躊躇せず、それを捨て去る事が出来た。品物は消えても、思い出は、消えない。塔子の胸の中でその思い出は、今も色褪せる事なく、ナイフのような煌めきを放って、永遠に生き続ける。



↑ありがとうございます

いつも最後まで読んで下さり、ありがとうございます

しろ☆うさです

一話読み切り、と謳っておきながら、最近投稿しているもの、全て続きものばかりだな~と思い(笑)、今回は久し振りに読み切りを書きました

なんだかもやもやする読後感ですかね

一応、これは小説?なので、しろ☆うさの考えなどは一切載せていませんが、いつも書き終わった後は解説したーい気持ちに襲われます(笑)。

解説というか、むしろ突っ込みというか(笑)。

でもそれをすると小説の体を成さないので、ぐっと我慢している次第です……グッと(笑)。

だもんで、いつも問題を提示するだけの形で進めさせて頂いております(笑)。解決しないままポン、と放り投げているようで、心苦しいのですが

いつも、こんな重~い内容を取り扱っているブログに訪問して下さる方、ありがとうございます(*^_^*)

ブログランキングや拍手などを押して下さっている方にも、心から感謝しています

しろ☆うさでした~~(^O^)/



↑いつもありがとうございます
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