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vol.34 母の思い出 3

およそ三日に及ぶ難産の末、第一子となる、娘の沙耶が生まれた。
当時、働いていた母は、休暇を三日取って、塔子の家に手伝いにやって来た。それは、塔子がまだ幼い頃からの、二人の約束事であった。
「塔子に赤ちゃんが生まれる時は、お母さん、ちゃんと面倒みてあげるからね」
約束事というより、それは母がずっと口癖のように言っていた言葉だ。事あるごとにその言葉を発するので、塔子には二人で決めた約束事のように感じていたが、それは母が自分の意志で決めた事であった。

そして、約束は守られた。塔子が初めての育児に専念出来るように、母は食事や掃除、洗濯などの日常の家事を、三日間手伝ってくれたのだ。母は塔子と自分の朝食を作ると、洗濯物を干し、皿を洗う。スーパーへ食材を買い出しに行くと、今度は二人分の昼食を作ってくれる。乾いた洗濯物を取り込んで畳むと、今度は夕食用に塔子と彼の二人分の食事の用意をする。そして、赤ちゃんの沐浴の用意をして、塔子と二人でおっかなびっくり、そうっと赤ちゃんを小さな湯船に浸けた。

彼が帰って来ると、母は自宅へと戻った。そして朝になると、また母がやって来た。塔子達が住むマンションは、母の住んでいる場所から電車で二駅の距離だった。結婚して少し離れてしまったが、同じ市内に住み、さほど遠い距離でもなかった。
三日間、それは続いた。約束は、果たされたのだ。

母は、きっとその三日間で、ほとほと懲りたのかもしれない。それから三、四ヶ月もすると、突然当時住んでいた家を引き払い、隣りの市へと越して行った。一人暮らし用の小さなアパートを見つけ、急遽そこへ行ってしまったのだ。隣りの市とはいえ、塔子のマンションからそのアパートまでは、一時間くらいかかる距離だ。
「いずれ子供は大きくなるでしょ。休みの日なんかに、ちょっとお母さん、預かって、なんて言われたら、大変だもの」
母は悪びれもせず、けろりとして、そう言った。
「みんな、孫がかわいい、孫がかわいいって言うけれど、私は全然、そう思わない。自分の子供の方が、よほどかわいいと思うのよ」
確かに、赤ちゃんはただ泣いて、おっぱいを飲んでいるだけだ。自分の子供なら、我儘を聞いてくれ、自分に役立つ事をしてくれ、困った時には金銭の工面までしてくれる。彼女にとって、赤ん坊は邪魔なだけの存在なのだ。

母と塔子の距離が出来た事で、これからは突然ふらり、と無心にやって来る事も少なくなるかもしれない、と塔子は思ったが、それは甘い考えである事がすぐにわかった。この世の中、送金する手立ては、いくらだってあるのだ。母は電話で指示を出す。塔子はその額を銀行に振り込む。
結局は、近くにいても、離れていても、同じ事の繰り返しだった。

沙耶が1歳半の時に、塔子のお腹に二人目の命が芽生えた。お外が好きで、オムツでもこもこしたおしりを揺らしながら、沙耶は一日中でも外出をせがんだ。沙耶の時よりもつわりがひどく、何度もトイレに駆け込みながら、塔子はなんとか沙耶の要望に応えようと、朝と夕方の公園巡りは欠かさなかった。沙耶は明るく、元気いっぱいで、何をやらせても同じ月齢の子供よりも早かった。それでも、夕暮れの帰り道、体力の限界が来て、抱っこをせがむ。大きく突き出たお腹の上に沙耶を乗せ、塔子はゆっくりゆっくり歩いて帰宅した。

こんなに、かわいいのに。
沙耶の寝顔を見つめながら、塔子は思った。この広い世の中、そりゃ孫が嫌いな人だって、いるにはいるだろう。でもなにも、わざわざ嫌いだと宣言しなくてもいいじゃないか。
孫が出来たからと、なにも慌てて引っ越さなくてもいいじゃないか。

塔子のお腹はどんどん膨らんだ。お腹が膨らむ度に、喜びよりも、不安が募った。
塔子の入院中、沙耶の面倒をみてくれる人が、見つからないのだ。沙耶を連れて子連れで入院するわけにはいかない。友達もみな仕事や恋愛に忙しく、仮にいいよと言ってくれたとしても、5日間も子供を預けるのは気が引けた。それに、彼女達は誰も子育ての経験がない。無理は承知で、弟夫婦に連絡を取ってみたが、うちにも小さな子供がいるから無理だとあっさり断られた。最後の頼みの綱で、塔子は母へ連絡をしてみた。

「沙耶一人を預かるの? そんなの無理に決まってるでしょ。そういうのが嫌だから、わざと遠くに暮らし始めたのに」
予想通りの言葉に、塔子は思わず吹き出しそうになった。母らしい、嘘偽りのない、言葉だ。
しかし、お腹は日に日に大きくなっていく。沙耶を預けるところがない。
沙耶のためだ。仕方がない。微かにまだ残っていたプライドを捨てて、塔子は義理の母の元へと向かった。



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