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vol.32 引っ越し 2

一人目が生まれ、二人目が生まれても、彼はその六畳二間のマンションから出ようとはしなかった。沙耶が小学校に上がるまでにはなんとかして次のところを見つけたい。塔子は一人、そう思っていた。人に住むところを決めてもらうのではなく、自分達二人で探して、自分達の責任で住むのだ。物を増やすのが嫌いな彼のお陰で、部屋の中に荷物はほとんどなかったが、それでも子供が増えていく毎に、なにかしら物は増えていくものだ。小学校へ上がるとなると、またそれなりに物や家具が増える事になるだろう。別に、豪華絢爛なマンションに住みたいわけではない。ただ、自分の生活を自分の気に入った場所で送りたい。塔子の望みはそれだけだった。

沙耶が年中さん、海斗が2歳の頃、塔子は一大決心をして、自分で次の行き先を探す事にした。やんわり言っても、強く言っても、彼は意地でもそこから動こうとはしないからだった。どれだけお願いしても、どれだけこれから先の話をしても、「自分はここに眠る時に帰るだけだから」と言って、聞く耳を持たなかった。「贅沢を言うな」、「ここを選んだオレの親の面子を潰すつもりか」などとくどく何度も何度も言われると、塔子は段々、自分がとてもいけない事を口にしているような気分になっていた。

自分は贅沢なのだろうか? これは当たり前の要望ではなく、贅沢極まりない要求なのだろうか?

塔子は自責の念にかられた。6年の歳月で、完全に洗脳されていたのだ。彼は身ぶりや態度、そして口に出してハッキリと、「お前はダメな人間だ」というスタンスで、塔子に接し続けていた。どれだけ塔子が反論しようとも、彼は決してその態度を改めようとはせず、輝かんばかりに自信を漲らせながら塔子へ攻撃の手を伸ばした。それが何年も続くと、塔子は彼の思想こそが正義であり、自分はただ彼の正しい人生を惑わす厄介者なだけの存在だという意識が芽生え、そして根付いた。自分の思想こそ間違いであり、彼こそが正しいのだ、と。それは歪んだ認知であったが、あまりにも長い年月を費やして来た二人の関係性の成れの果てだったのだ。それでも心の片隅で、いつも「何かが違う。何かがおかしい」という違和感のようなものは、確実に存在していた。ただ、そこに焦点を置けば、その小さな名もない感情を最優先すれば、彼の態度が途端に変わる事を、塔子はこの年月の間に嫌というほど味わって来た。嫌み。拗ねる。暴言。無視。あれらがまた再び始まるのであれば、塔子は甘んじて自分の感情を殺す事の方を選んだ。そうやって彼のプライドをいつも最優先し、自分の感情も思想もプライドも、生け贄として彼に捧げた。

しかし、彼女は実行に移した。このままでは、自分も子供達も、ずっとこの不便な環境を強いられる事になる。我が儘だと罵られても構わない。自分はもう充分に彼の顔も、義理母の顔も立てたはずだ。塔子は荷物をまとめ始めた。彼が不服そうな表情で、そんな塔子の姿をじっと見つめた。

「何やってるんだよ」
「出て行くのよ」
「なんで?」
「私、何度もあなたに説明したと思うけど」
塔子は真っ直ぐに彼の顔を見つめ返した。当たり前の事を何を今更訊いてくるの?という塔子の毅然とした態度に、彼は面食らってしまったのか、しばし呆然とした。
「出て行くって、お前、帰る実家もないのに?」
「なんとかなるわよ。もうね、もうね……」
疲れたの。たった一つの願い事すら、聞いてくれない、あなたに。
私の意見を封じ込めた、あなたに。
私の感情を握りつぶした、あなたに。
私の尊厳を粗末にした、あなたに。
いつも私の人生を軽んじた、あなたに。

変わらない、変わろうとしない、あなたに、疲れたの。


↓このおはなしは、vol.29 引っ越し1(11/22)の続きとなっております。

引っ越し1



↑いつもありがとうございます

しろ☆うさです。いつも読んで下さってありがとうございますm(_ _)m

今日のおはなしは、以前に書きました「引っ越し1」の続きとなっております☆

……まだ完結しておりません。またまた続きます(^^;)

最近、一話完結じゃなくなってますね(笑)。

どうしても題材が題材だけに、内容も濃い~しね(^_^;)

温かく見守って下さると幸いです(*^_^*)

いつも訪問して下さったり、ランキング、拍手押して下さっている方、本当にありがとうございます!

感謝しています♪♪♪

これからもスローペースですが、地道に頑張りたいなぁって思っています。

おはなし「ひとしずく」、これからもよろしくお願いいたします(^^)/~~~



↑いつもありがとうございます
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