FC2ブログ
<< vol.4 甘い声 :: main :: vol.2 少しずつ進む狂気 >>

vol.3 笑う人

三日にも及ぶ難産の末に、塔子は女の子を出産した。女の子だった。

子供が誕生した時、塔子は純粋に感動し、その小さな愛らしい存在に感謝した。
それは、全世界の縮図のような、手に触れてはいけない神聖なもののように思った。

そう、それは尊い存在に思えた。
ぎゅっと握りしめた小さな手も、まだ太陽の光を知らない透き通るように白い肌も、時折目をぱっちりと開ける様子も、なんの脈絡もなく空間に向かって笑顔を見せる表情も、塔子の心を掴んで離さなかった。
お世話をしている気は、さらさらなかった。自分より尊い存在を、看させてもらっているような気持ちだった。

生まれてきてくれて、ありがとう。
私を、お母さんにしてくれて、ありがとう。

我が子を胸に抱くたび、自然と感謝の念が生まれた。こんな事は、未だかつて経験した事のない、不思議な感情だった。
確かに、3時間置きの授乳や夜中のおむつ替えなど、初めての体験で疲労困憊し、慢性的な睡眠不足になりはしたが、塔子の心に芽生えた新しい気持ちに、嘘偽りはなかった。心が浄化されたような気さえしていた。

しかし、心の清らかさとは裏腹に、塔子の体調は一向によくはならなかった。
下半身の痛みは日に日に強さを増し、家事はおろか起き上がるのさえ、一苦労だった。
これはおかしい、と塔子は自覚し、彼に相談を持ちかけた。もう、一人で赤ん坊を連れて、病院へ行く事すら出来ないほどに、痛みはひどくなっていたのだ。

「気のせいじゃない?」
彼は笑顔で優しく応えた。

数日後、塔子はとうとう寝たきりになってしまった。赤ん坊を寝かせているベビーベッドの脚を必死に掴んで痛みに耐えながら、彼の帰宅を待つ。

帰って来た彼は塔子がベッドで横になっているのを見ると、フッと笑った。
「なに、その手。なに、そんなギューっと掴んでるの?」
「痛いから、これで、気を紛らわせていたの」
「でもさ、なんか芝居染みててさ……なんか、笑っちゃうよね」
彼は愉快そうに、脚を掴んで痛みに耐える塔子の姿を上から見下ろしながら、ゲラゲラ笑い出した。




しろ☆うさと言います。
これは、オリジナル小説です。

最後まで読んで下さって、本当にありがとうございます


スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿












トラックバック

この記事のトラックバックURL:

 |   |