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vol.29 引っ越し 1

義理の母に言われて結婚と同時に住み始めた家は、古くて小さなマンションだった。そのマンションのオーナーと義理母が友達だった事から、そこに入居するように指示された。空き部屋が多数出ているので住んで貰いたかったようだ。マンションのオーナーは、すぐ隣りの家に住んでいた。

そこは六畳二間のアパートのようなところで、義理母に連れられて一目見た時から、塔子はそこが気に入らなかった。自分の事は責任を持って自分で決めたい塔子は、なんとかそこから逃れようと思ったが、義理母とオーナーと彼の三人に言いくるめられ、逃げる事は出来なかった。

「最初は皆、こういったところからスタートするのよ」
義理母は諭すように塔子に言った。
「いっぱい空いてるからねぇ。住んでもらわないと困るのよ」
オーナーのおばさんが言った。
「知り合いだから、家賃、安くしてくれるしさ。オレのお袋の顔も立つし。お前はわからないだろうけど、人助けっていいもんだよ。そうやって助け合いながら、人は生きて行くんだよ。オレのお袋のおかげで、良いところがすぐに見つかってよかったよ。お前はラッキーなんだから、オレの親に感謝しなくちゃいけないんだぞ」

たくさん言いたい事はあったが、何を言っても見当違いな意見が返って来る事が容易に予想された。結局、塔子が折れて、二人はそこに住み始めた。長い人生のたった二年や三年、辛抱したっていいじゃないか。それで義理母の顔が立つのならば、決して我慢も無駄ではなかろう。

そこに住み始めてすぐに、塔子はあらゆる困難にぶつかった。畳を取り替えていないのか、毎日掃除機をかけても、ボロボロと屑が出て来る。部屋と台所を仕切るガラス扉は、開閉する度に断末魔の叫びのような音を上げる。毎日窓を開け放して換気していても、風呂場にはカビがすぐに生える。トイレはなぜか風呂場の奥にあり、床には段差がないため、床掃除後はゴム草履を履かない事には、そこまで辿り着く事すら出来なかった。しかし、塔子は文句を言わなかった。最初、何度か愚痴をこぼしたら、彼はまるで自分の母親が侮辱されたかのように、烈火のごとく怒り狂ったからだ。
「なぜ、お前は我慢が出来ない? オレはお前に我慢している事、いっぱいいっぱいあるんだぞ。それなのにお前は文句ばかり! 我慢くらい、ちょっとは出来ないのか!?」

住み始めて1年足らずで、奥の寝室から何かの音が聞こえ始めた。それは一定の間隔で、規則正しく、微かに響く。それが水漏れだと気付くのに、塔子は三日も掛かった。その音の元を辿ると、それは床の間の天井から聞こえた。上の住人が、花瓶の水でも零してしまったのだろうか? それにしても、この三日間、音はずっと連続して聞こえているのだから、花瓶の水のわけがない。塔子は隣りのオーナーに相談した。やがてやって来た工事の人達は、ここは構造がおかしいから修理不可能だと言い出した。塔子の部屋の作りと、その上の住人の作りは真逆になっていて、塔子達の寝室は、上では風呂場とトイレになっていたのだ。
「家賃、下げるから。我慢して、ね。こっちも応急処置はちゃんとするから」
オーナーは菓子折りを持って来て、懇願した。
「よかったわね、塔子ちゃん。家賃が下がって」
義理母は本気でそう思っているらしかった。

やがて、娘の沙耶が生まれた。塔子は何も口に出さず、彼の様子を見ていたが、そこから動こうとする気配は見せなかった。
やがて、息子の海斗が生まれた。彼はやはり、動こうとはしなかった。

そうして、6年の年月が流れた。
沙耶は幼稚園の年中さん、海斗は2歳の終わりまで、塔子達はそこで暮らした。


※vol.11 紅茶とカーペット(9/25)の続編になっています。
紅茶とカーペット



↑ありがとうございます

しろ☆うさです いつもお世話になっております

今日のおはなしは、以前に投稿している、vol.11「 紅茶とカーペット」(9/25)の続編?のような物です。

あ、もちろん、読まなくてもわかるようになっていますが

念の為、貼っておきます(笑)↓

紅茶とカーペット


いつも、最後まで読んで下さって、ありがとうございますm(__)m

たくさん感謝しています……が、小説の題材がモラハラなだけに、お読み下さった方が不快な気持ちになっていなければよいのですが……

小説という形式を取った以上、問題を提示するような書き方しか出来ませんので……時々歯痒くなる時があります(笑)。

なので、いつもここで詫びさせていただいておりますm(__)m

これからも、おはなし「ひとしずく」、どうぞよろしくお願いいたします



↑いつもありがとうございます
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