FC2ブログ
<< vol.28 母の思い出 2 :: main :: vol.26 二人の外出 >>

vol.27 真夜中に走る自転車 2

自転車に乗って、人気のない寂しい夜道を、塔子は一人で走っていた。
やがて、目の前に、○○病院の巨大なシルエットが浮かび上がる。場に不似合いな圧倒的な大きさで、それは鋭利な角度を塔子に向けている。

一体、どこから入ればいいのだろう? 塔子は自転車を降りて、辺りを見渡した。少し離れた場所に、赤い誘導棒を持った警備員の姿が見える。塔子はそのおじさんに駆け寄った。
「あの、自転車置き場はどちらにありますか?」
「一番向こうの外れだけど、もう病院は閉まってるよ」
男は誘導棒でどこか遠くの方を指し示し、ぶっきらぼうに答えた。
「いえ。母が救急でこちらに搬送されたので来たんです」
「じゃ、その辺の端の方に、自転車、停めて。救急外来の入り口は、あっち」
塔子は男に言われた通りに、端の方に自転車を停め、入口を目指して走り出した。確かに、救急外来に自転車で来る人なんていないだろう。塔子はフッと笑った。自分のしている事が、可笑しかった。そして、悲しかった。

受付で、自分の名前と母の名前を告げると、名簿に氏名を記入するように指示された。記入を終えると、すぐに部屋に通された。そこは、大きな部屋だった。何やらわからない機材がたくさんあり、簡易式のベッドが全部で10ほども並んでいた。運ばれて来た見も知らぬ救急患者達が、いくつかのベッドで寝ている様子が見て取れた。緑色のカーテンで仕切られているベッドもあれば、開け放したまま付き添いと思われる人々に囲まれている病人もいた。
「こちらです」
看護師が中央のベッドまで、塔子を連れて行った。
「今、検査が終わったところです。結果が出るまで、こちらでお待ち下さい」
「はい」
塔子は母を見下ろした。目を閉じてベッドに横たわっている母の顔色は、まるで土のようだった。
でも、生きているのだ。
なんだか気が抜けて、塔子はベッドの下から丸椅子を取り出して、そこに腰掛けた。椅子を引いた時のギギギ、という音で、母が目を覚まし、塔子?と尋ねた。
「そう」
「なんだ。来たの」
「うん。救急隊員から、連絡があったから」
「大家さんがね、立てなくなっている私を見つけてね、救急車呼ぶぞ! いいな! って言ってね。私、取り敢えずあなたの電話番号を書いているメモを、来てくれた救急の人に渡したの。別に、来てくれって意味で渡したんじゃないんだけどね」
「じゃあ、どういう意味だったのよ」
塔子は思わずプッと笑った。
「念の為よ」
母はそう呟いて再び目を閉じた。そしてすぐに目を開けて、子供達は?と尋ねた。
「大丈夫、大丈夫。彼に預けて来たから。今頃、寝てるでしょ」
「今、何時なの?」
「うん……9時くらいだね」
それから、塔子と母はお喋りを続けた。途中で何度か看護師が様子をチェックしに来たが、検査の結果はまだ出ないようであった。

話の内容は、主に昔話だった。塔子が忘れてしまっていた事を、母はよく覚えていて、事細かく当時の状況を話し続けた。塔子は土色の顔の母を見つめながら、うん、うん、あ、そうだったの、と相槌を打ち続けた。塔子にとってはどうでもよい事柄だったが、母は聞き手を得たためか、嬉しそうに話を続けた。話題はあちらこちらに飛んだが、言っている内容はしっかりしている。ただ、ろれつが回っていないため、まるで老人と会話しているような気分になった。母はまだ50代である。

やがて、母の話声はぴたりと止んだ。眠ってしまったのだ。塔子は立ち上がり、体を伸ばした。夜の11時。もう、ここへ来て、二時間も経つのだ。時刻が時刻なだけに、塔子もなんだか急に疲れを覚えた。まだ、検査の結果は出ないのだろうか。

母のいない長い夜を、子供達は一体、どうやって過ごしているのだろう?
途中で起き出して、塔子がいない事に怯え、泣いているのではなかろうか?
どれだけ声も枯れよと泣き叫んでも、母は帰って来ないのだ。
彼は、子供の泣き声くらいで、目を覚ます人ではない。そこで目を覚ます人ならば、私はメニエールで入院しなくてはならない状況にはならなかったはずだ。
彼の定義では、彼は全力で子育てをしているらしいのだ。全力で家族をサポートしていると、固く信じているのだ。その信念は揺るぎなかった。彼はメニエールになった塔子を責めたが、その原因にほんの少しでも自分の未熟さや無関心や思いやりの欠如が関係しているとは、夢にも思っていないようであった。自己反省を一度でもした事がない者に、自己を深く愛し信じている者に、一体何が言えるというのだろう。

「田中さん。結果が出ました。先生がお呼びです」
看護師が、塔子の背後から声を掛けた。塔子は咄嗟に母を見た。大丈夫、眠っている。
看護師の背中を追うように、塔子は足早に歩き出した。


※このおはなしは、vol. 20 真夜中に走る自転車 1 (10/20)の続きとなっております。

真夜中に走る自転車 1



↑いつもありがとうございます

しろ☆うさです いつも最後まで読んで下さって、ありがとうございます

今日のおはなしは、vol.20 真夜中に走る自転車 1 (10/20)の続きになっています

真夜中に走る自転車 1

今回もまだ、設定が真夜中ではないですね(笑)。そうです、まだ、続くのです(笑)。

「真夜中に走る自転車 3」では、きっと真夜中の時刻になっていると思います……多分(笑)。

いつもブログランキングや拍手などを頂きまして、本当に嬉しく思っています

ありがとうございます

今後もおはなし「ひとしずく」、どうぞよろしくお願いします(*^_^*)



↑いつもありがとうございます
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿












トラックバック

この記事のトラックバックURL:

 |   |