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vol.18 まだ早すぎる

塔子は雑誌や産院のマニュアルなどで、子供が生まれるにあたっての準備を色々と調べた。
オムツ。まずこれは生まれて退院してから買いに行くのでは遅い、という事を知った。赤ちゃんは、生まれてすぐには外には出せない。1ヶ月くらい過ぎた頃、徐々に5分、10分と体を慣らしていくのだそうだ。その間、親も外には出られないので、まずは新生児用のオムツ一袋分は必ず用意をしておくようにと書かれてある。
オムツ。塔子はメモ用紙にそう書いた。

赤ちゃんに母乳を飲ませる前に、清浄綿で胸を除菌しなければならない事も知った。
清浄綿。塔子はメモを取る。

母乳がすぐに出ればいいが、母乳はメンタルな部分がたぶんに作用するものであり、出ない事も想定して、ほ乳瓶と粉ミルク、それにほ乳瓶の洗浄液を用意しておく必要を知る。ほ乳瓶は自宅用と外出用を分けておき、自宅用には衛生面からガラス製が望ましく、外出用には軽く割れないプラスチック製品の物がよいらしい。
ほ乳瓶(ガラス、プラスチック)、粉ミルク、清浄液。

お腹の中から出てきたばかりの赤ちゃんは、爪が伸びた状態で生まれて来るのだそうだ。赤ちゃんが手をパタパタと動かす際、爪が長いままだと自分の顔を傷付けてしまう。
赤ちゃん用の先の丸い爪切りバサミ。ミトン。

入院中は病院で肌着やおくるみを貸してもらえるが、退院時には返却して、持参した服を着せて帰らなければならない。
肌着。服。

気が付けば、メモは用意しなけばならない物でいっぱいになった。
小さくても人間が一人増えるという事は、たくさんの荷物や持ち物が増えるという事なのだ。

沐浴に必要な桶。温度計。ガーゼハンカチ。ベビーカー。抱っこホルダー。ベビーベッド……。
数え上げればきりがないので、塔子は友達から借りられそうな物や、最初の一月しか使わなそうな物や、贅沢品は分けて書いた。ベビー専用のレンタルで賄えそうな物は、それを利用する事にした。授乳クッションやマザーバックなどは、実際に生まれて様子をみてから購入を考えても遅くはない。

塔子は友達に電話をして承諾を得て、借りられる物を受け取りに出向いたり、買わなければならない物を物色しに行ったりした。そうして、狭いマンションには少しずつ少しずつ、赤ちゃんのための道具類が整っていった。

彼は帰宅すると、家の中に新しく買った物や借りてきた物が増えている事に目ざとく気付いた。そして、塔子を責めた。これは一体、何に使う物なのか。そっちは生まれてから準備しても間に合うだろう。これ、いくらしたの? それは本当に必要な物なのか? たかだか赤ちゃんが生まれるくらいで、一体どれだけの金を使うつもりなのか? 
塔子は辛抱強く、生まれる前に必要な物しか自分は揃えていない事、人に借りられる物は借りて来た事を、その都度説明しなければならなかった。塔子の説明を聞いても、彼はそれらの物が自分のマンションに存在する事態が気に入らないらしく、ああ、もう、いい、と煩わしそうに手を振るだけだった。塔子は段々、子供用品を揃えていく自分に罪悪感さえ覚えるようになった。

ある日、母が塔子の家にやってきた。母は再婚に失敗してから、一人で働いて暮らしている。そして母がたまに塔子の家に来る時は、決まってそれは金の無心と用件は決まっていた。母がやって来ると、塔子の気は重かった。困っているからなんとかして、と当たり前のように要求されるからだ。塔子は自分で働いて貯めた貯金を、こうしてやって来る度に手渡していた。母は会社が休みの日など、たまにしか来なかったが、時折会社帰りにやって来る事もあった。そういう時は娘の婿に会わないようにするためか、さっさと用件を切り出して、奪い取るようにしてそそくさと帰って行った。

その日母は珍しく会社帰りに塔子に会いに来た。そして塔子の渡した封筒を鞄に詰め、帰ろうとしたちょうどその時に、彼がただいま、と帰って来た。お邪魔してたのよ、じゃあまたね、と母が彼に言うと、彼はちょっと待って下さい、と母を呼び止めた。
「塔子さんが、最近、散財して、困っているんですよ。お義母さんからも、きつく叱ってやって下さいよ。僕が注意しても、全然聞いてくれないのでね」
母は玄関先で立ったまま、赤ちゃんが生まれて来るのだから、用意しなければならない物はたくさんある。塔子は当たり前の事をしているだけだ、と反論した。彼の顔が徐々に曇っていくのが、塔子にはわかった。

母が帰ると、彼は塔子に詰めよった。
「お義母さん、一体なんでうちに来てたんだ?」
「私の顔を見に来たんでしょ。妊娠中だし、心配なんじゃない? 様子伺いみたいな感じじゃないかな」
「お前のおふくろ、勝手にうちに入って来たりして。ここはオレの家なんだよ」
彼は吐き捨てるように言いながら、困っている塔子をじっと観察していた。
「お前は鈴木家に嫁に来たんだから。もうこれからは自分の母親とは仲良くしなくてもいいんだよ。鈴木家に嫁に来たんだから」




しろ☆うさです 本日も暗~い話を最後までお読み頂いてありがとうございます

「ひとしずく」はしろ☆うさのオリジナル小説です☆

まだまだ続きますので、今後ともよろしくお願いいたします





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