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vol.15 行き交うシャトル

父との思い出はそんなにない。父はいつも夜遅くに帰ったし、思春期には単身赴任していたからだ。

たまに父が家にいると、なんだか落ち着かなかった。彼は彼なりに自分や弟に対して愛情を持っていたのだろう、とは思うが、愛情は誰にも計れない。

幼い頃、父と母、弟と自分がどこかへ出掛けると、必ず帰りの車内では険悪な空気が流れた。いつもそうだったので、塔子はどこの家族でもそんなものなのだと思っていた。

例えば、家族四人で公園へ行く。母は朝早くに起きて、お弁当を作る。着いたら父と塔子と弟は、遊具で遊んだりアスレチックに挑んだり、バトミントンをしたりして遊ぶ。母はシートを広げ、お弁当を広げ、出来たよー、と叫ぶ。そしてみんなはそれを食べる。食べ終えると、また再び遊び始める。大きな滑り台を滑ったり、ブランコに揺られたりする。母は荷物番をしながら、それらの光景をじっと見守っている。

やがて、父がもう帰ろう、と言い、帰り支度を始める。持って来たバトミントンを袋にしまう際、母がちょっとふざけて一回、二回、とシャトルを打ち上げてはラケットでそれを打つ。それを見た塔子が、もう一つのラケットを握って、「お母さんも一緒にやろう!」と誘う。
母と塔子は交互に打ち合う。試合は白熱する。母と娘は、大声で笑う。シュッというシャトルの音を響かせて、二人は走る。シャトルは右へ飛んだかと思えば、カーンという音と共に次は左へと飛ばされる。母と塔子は夢中になって打ち合う。弟が歓声を挙げる。試合は、母の勝ちで終わった。

次に、弟がボクもお母さんとやりたい!と言い出す。いいわよ、と母が言い、今度は母と弟がラケットを持って打ち合う。先程塔子とバトミントンをして疲れてしまっていたのか、今度は弟が勝った。塔子はパチパチと二人に拍手を送る。

帰り道、父は一言も口を利かなかった。それは、音もなく、自然にゆっくりと現われるので、初めは誰も気付かない。それと気付いた時には、もう始まっているのだ。車内には、父の苛立ちと不満の空気が流れ始める。誰もがそれとは気付かないうちに、それは物凄いスピードで、狭い空間をいっぱいに埋めてしまう。私達はその重苦しい空気を吸う。ピリピリとした空気を感じ始める。母がいち早くそれを察して、口を開く。しかし、父は何も言わない。塔子も弟も、いつしか不穏な気配をキャッチして、黙り込む。

「どうして、私もバトミントンをしちゃいけないのよ」
母が涙声で父に尋ねる。しかし、父はそれには答えない。相槌も打たなければ、返事もしない。父はただ黙って前を向いて運転している。母は途方に暮れて、黙り込む。
やがて、車は家へ着く。家に着いても、父は誰とも口を利かない。それは一日で終わる時もあれば、一週間、二週間と続く時もあった。




しろ☆うさです
今日も暗い話を最後までお読み下さり、ありがとうございます(笑)。
塔子は、やがて成長します。自らの力で立ち上がり、現状を突破します。
……が、それはまだまだ先のおはなし……☆



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