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vol.14 訪れる人

塔子のお腹はみるみる膨れ上がった。
まだ生まれてくるまでには二ヶ月もあるのに、まるでもう臨月のような大きさだった。
「難産になるから。覚悟しておいてね」
担当の初老の主治医がそう言う。しかし、実際に出産経験のない塔子には、難産、という意味すらわからなかった。

塔子は小柄で細かった。身長は150cmそこそこしかない上、体重は40kgもなかった。対して彼は大柄だ。180はある長身に、80kg弱の体重。子供は彼に似たのだろう、と塔子は思う。

安定期に入る頃から、塔子は腰痛に悩まされた。腰一つで赤ん坊を支えているのだから、仕方のない事だ。
休日、塔子は友達と一緒に、電車に揺られデパートへ出掛けた。チラシでマタニティ・フェアが開催されている事を知ったからだ。
「うわ~大きなお腹だねぇ!」
久し振りに会った幼なじみが声を挙げる。彼女はまだ独身だが、婚約中だ。
「私、まだ赤ちゃんいないから、よくわかんないけどさ、ちょっと大き過ぎるんじゃない?」
「そうなんだよね。だから、腰痛がひどくって。腹帯っていうの?を買おうと思ってね」
「いいじゃん、いいじゃん。それするとラクになるんでしょ。だったら買いなよ。一緒に選んであげるからさ。ついでにベビーコーナーも寄って行こうよ。色々揃えなきゃいけないんでしょ?」
「そうだね。肌着とか、いっぱいいるみたいだしね」
幼なじみは塔子の顔とお腹を交互に見比べて笑った。
「なんか、不思議。塔子、もうすぐお母さんになるんだね」

二人は楽しく買い物をした。初めての経験で何を選べばよいのかわからないので、売り場の人に相談し、実際に手で触れて選んでいった。塔子の買い物が済むと、今度は幼なじみが会社に着て行く洋服を二人で見て回った。その後お茶をしにカフェに入り、二人は楽しい気持ちのまま別れた。

駅を降りて、塔子はスーパーへ立ち寄った。今日、彼は遊びに出掛けていて、家にはいない。が、必ず夕食は家で食べる人なので、塔子は夕食のための食材を買い求めた。
肩には鞄。左手には腹帯などのマタニティ用品。そして、右手に食材。
徐々に痛くなる腰を気遣いながら、塔子はゆっくりと歩いて帰った。

マンションに着くと、そこには見知らぬ男が二人立っていて、ちょうど塔子の住む部屋のチャイムを押しているところだった。
彼らは塔子に気がつくと、「鈴木塔子さんでいらっしゃいますか?」と尋ねた。塔子がはい、と答えると、男達は愛想笑いをうっすらと浮かべた。
「あなたのお母様、田中京子さん。実はわたくしどもの銀行から融資を受けておられましてね。しかしここ二ヶ月ほど……ちょっと……振り込みが滞っておりましてね。お母様に電話をしても繋がらないものですから、保証人様になっておられる塔子さんの元に、事情を伺いにこうして参ったわけなんです」
「えっ……?」
塔子はその場に荷物を持ったまま茫然と立ち尽くした。
頭がガンガンする。一体、この人達は何を言っているのだろう? 私は何も知らない。何も、母から聞かされてはいない。
「お母様に、一度、ご連絡を取っていただくわけには参りませんでしょうか? わたくしどもがご連絡さしあげても、お母様はお出にならないようなので……」
身なりのよい男達は、再び愛想笑いをした。
「……はい……」
話をしていた方の男が、「わたくし、○○銀行△△課の……と申します」と言いながら、塔子に名刺を差し出した。塔子は足元に荷物を置き、男が出した名刺を受取った。
「こちらの番号に電話を下されば、わたくしに繋がりますから。では、失礼いたします」
男は頭を下げた。男は頭を上げる際、視線を塔子のお腹へと走らせた。
「赤ちゃんがお腹にいらっしゃるのに、こんなお話をして申し訳ありませんね」
男の愛想笑いが、いつしか気の毒そうな微笑みに変わった。

塔子は家へ入るなり、母に電話を掛けた。呼び出し音が二、三度鳴ると、はい、という母の声が聞こえた。
塔子は怒り半分、冷静さ半分の態度を持って、母に事情を説明した。だって、仕方がないのよ、と受話器の向こうから朗らかな声がした。
「ないものはないんだもの。ないのに連絡なんて、しようがないじゃない」
「こっちだって近所の目もあるんだし、してもらわなきゃ困るのよ。そもそも、どうして勝手に私を保証人にしたの!いつもいつも、何の相談もなしに勝手に決めて!勝手に銀行からお金借りて!人の名前、無断で使って!」
「だって、仕方がないのよ」

どうして? どうしてこの人はわかってくれないの? 母親なのに、本当に血を分けた母親なのに……。
私があんなに働いて、その稼ぎのほとんどを奪い取ったくせに。一体、あのお金はどこへ消えてしまったの? どうしてこのまま放置していたら、私の面目を潰す事になると気付かないの? 家まで知られているのに。いつ彼に知られるか、わからないのに。
私にもうすぐ赤ちゃんが生まれてくる事も、どうしてそんなに無関心でいられるの?

塔子は静かに、電話を切った。





いつもありがとうございます。しろ☆うさです
塔子に幸せは訪れるのか!?
それはまだまだ先なのです(笑)



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